社員を「人材」と呼ぶ日本企業がダメな根本理由 従業員報われぬ株主資本主義が続く社会だが…

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もちろんMBAそのものを否定するわけではないし、僕自身は、アメリカ的な年収アップを目的とした学び直しを否定するつもりもありません。

ただ、『持っていれば優秀そうに見えるもの』を取ろうとしていたのは、まさに「doing」重視の考えに染まっていたからだと思うし、だいいち、その道を進んだとしても、茨の道だと思うんです。同じように「自分を強化しよう」と考えてやって来る人は、たくさんいるわけで。

石川:自分の人生を振り返ると、「自分は主人公・助っ人・観客のうちの、どれで生きていきたいか?」と考えたことがあります。

『むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました 日本文化から読み解く幸せのカタチ』(KADOKAWA) 。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

観客は存分に批評し、消費する立場。助っ人はめちゃくちゃ大変で、努力を重ねないといけない。一方で、主人公は「みんなが見てるものを違うように見て、道を示す」「いろんな人を仲間にする」ことが役割。

もちろんどれがいいわけでなく、それぞれ重なる部分もあるのですが、ひとつ気づいたのは「主人公は能力がなくていい。ただ、みんなと違うふうにいればいい」ということなんです。

角田:なるほど、興味深い。マンガの主人公のようですね。

石川:僕自身、途中までは予防医学の分野で、助っ人になろうと歩んでいました。ただ、幸か不幸か能力が低くて、「だったらもう主人公しか残されてない」と思うようになった。その結果、新しいものを作っていくのに、自分は向いてることに気づいたんです。

角田:石川善樹というひとりの人間にとっての「あるがまま」を追求した結果、結果的に仕事のほうでも、結果を出せるようになったんですね。

石川:『車輪の下』で知られる作家、ヘルマン・ヘッセの言葉に「どの人間の一生も、自分自身へと向かう道であり、その道の試みである」というものがあるんです。これは人生の本質であり、また、学ぶ本質でもあると感じます。

角田:自分らしさを大切にできる職場で、自分らしさを追求して学ぶことを続けられたら、個人もウェルビーイングだし、結果的に日本社会も上向くのかもしれませんね。(構成:岡本拓)

本連載では社会人になってから、学び直しを経験した方の体験談をお待ちしています。ご応募はこちらのフォームからお願い致します。
角田 陽一郎 バラエティプロデューサー/文化資源学研究者

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かくた よういちろう / Yoichiro Kakuta

バラエティプロデューサー/文化資源学研究者。東京大学文学部西洋史学科卒業後、1994年にTBSテレビ入社。「さんまのスーパーからくりTV」「中居正広の金曜日のスマたちへ」「EXILE魂」「オトナの!」など主にバラエティ番組の企画制作をしながら、2009年ネット動画配信会社goomoを設立。2016年にTBSを退社。映画『げんげ』監督、音楽フェスティバル開催、アプリ制作、舞台演出など多様なメディアビジネスをプロデュース。現在、東京大学大学院博士課程にて文化資源学を研究中。著書:小説『AP』『最速で身につく世界史/日本史』『なぜ僕らはこんなにも働くのだろうか』他多数。週刊プレイボーイにて映画対談連載中、メルマガDIVERSE配信中。

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