社員を「人材」と呼ぶ日本企業がダメな根本理由 従業員報われぬ株主資本主義が続く社会だが…

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問題は、その利益を誰が享受したのかということなんですが、基本的には株主です。そして株主に貢献するために、「コスト」に当たる研修や給与を削ってきたという構造があります。

いうまでもなく、この構造は「株主資本主義」とよばれる背景があるのですが、株主だけでなく、従業員なども含む「ステークホルダー資本主義」へと構造転換しなければならない時期を迎えています。

角田:日本企業の構造的な問題を変えるのは、とても難しいことなんですね。

石川:なので、企業に働きかけて学び直しが起こるとは、考えにくいんです。せいぜい、やってもハラスメント研修などに代表される言動の学び直し、あるいはDXなど、いずれにせよ対応しなければならない必要最低限のものですよね。

角田:たしかに現状、学び直しを謳っている企業でもあくまで最小限というか。建前じゃないけど、積極的には見えませんよね。

石川:ですので現状、日本企業では学び直しは個人の自発性に委ねられていると思います。ただ、そもそも学ぶことってめちゃくちゃ時間がかかりますし、エネルギーも必要なんです。

――そのエネルギーの源泉として、わかりやすい例は「給料アップ」ではないかと思います。ただ、昇給が柔軟な一部の企業を除き、年功序列制度が色濃く残る日本社会ではそれも難しい印象です。

石川:おっしゃるとおりで、学んだからといって、すぐに良い給料につながるわけでもない現実があると思います。

一方で、アメリカの学び直しは、給料アップのためなんです。というのも、給料アップしないと、切実に生活が苦しいんですね。たとえばサンフランシスコだと、世帯年収1500万円以下は貧困世帯に分類されてしまいますから。でも、日本だとそこまで苦しむことはない。そういう意味では、困っていると言いつつも、実際はそんなに困っていない……というのも、学び直しにつながらない要因だと思います。

――デフレが長く続いた結果、安価で質のいい製品があふれていますもんね。もちろん、将来的には物価が上がっていき、今より苦しくなる可能性はありますが。

石川:また、今はNetflixやAmazon Prime Videoなど、他にもっと手軽なエンタメがたくさんありますし、アメリカのように「給料があがる」など目に見えるメリットがないなかで学び続けるのは、なかなか大変なことだと思います。一方で、本当に困ってる人は、学んでいる時間なんてないでしょうしね。

無形資産軽視のツケが出ている?

角田:結果、学び直しは進まず、次の時代に適応した人も増えず、日本社会はますます停滞する、と。

個人的には日本企業は伝統的に無形資産を軽視してきて、今になってそのツケが回ってきたのでは、という思いもあります。「手っ取り早く儲けよう」「すぐに儲かるビジネスを優先しよう」的な風潮は、社員軽視の最たるものだと感じるのですが、石川先生はいかがですか?

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