(第44回)就職を企業と学生のコミットメント(約束)の場としてとらえ直す

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●採用プロセスと育成プロセスを一体としてとらえれば不幸は終わる

 ではどうすればいいのか?

 ここで新卒に求める人材像を明確にしなければならない。それは「ミドルコア人材」に至る「3年間で一人前」人材像だ。
 ミドルコア人材とは何か? その企業にとどまってコア事業、コア技術、コア職能を担い、長期にわたって自らの職業的な成長と企業の持続性を実現する人材だ。ミドルコア人材だけは自前で採用して育成し、確保しなければならない。したがって新卒採用は「ミドルコア人材」予備軍の採用であるはず、というのが吉澤氏の考えだ。とすれば採用は育成にリンクしなければならない。

 ところが実際の採用では「ハイパフォーマー採用」とか「グローバル人材採用」「コンピテンシー採用」という空論に毒されており、いったん採用すると、人事は画一的な育成プログラムを与えるだけ。ちなみにいま増えている研修プログラムは「コミュニケーション・スキル」と「ビジネスマナー」。実際のコア技術、コア職能を教え、若手を育成したい現場のニーズに対応していない。その結果が「育たない若手」「辞める若手」である。

 吉澤氏は、このような採用と育成プロセスのギャップは若者にとっても企業にとっても不幸なことだと考えている。ミドルコア人材という観点から採用プロセスと育成プロセスを一体としてとらえれば不幸は終わる。具体的には、採用プロセスと入社後の育成に連続性を持たせ、「3年で一人前」というプロセスにすればいいと言う。

●人事が3年間は責任を持ち、育つ職場に若手を配属

 職種によっては一人前に育つ時間は異なるが、さまざまな企業人事の声を集めると「一人前になるには3年間」が最大公約数。ところが実際には、多くの企業で3年間で一人前に育てていないことが若年層教育を破綻させ、高い離職率として表れているのだ。  そこで「一人前」になる前の3年間は初期人材投資期間、それ以後は収益人材と定義し、3年間は育成する企業の責任、それ以降は本人の責任が大きい、と人材要件を明確にする。

 人事が責任を持つ3年間は積極的に若手社員にかかわっていく。上司とのミスマッチが起こらないようにジョブローテーションを行い、育つ職場に若手を配属する。そして3年間の「一人前ゴール」が過ぎたら事業部門に育成を委ね、事業部門は職能的に育てていく。

 もちろん多くの日本企業の人事育成制度はその正反対だ。こんなにグローバル化したのに社員を年次管理する発想から抜け出せず、管理職昇進研修のような「輪切り研修」が一般的だ。これはエリート社員をゼネラリストとして育てた時代の名残である。

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