男塾コラボ炎上「吉野家」の筋がまるで通らない訳 220回超通った熱心なファンが怒ったのは当然だ

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実際に私の会社では、言いがかりや度を越したクレームには強い態度で接している。よって、(考えにくいが)もし、言いがかりや度を越したクレームへの対応で騒ぎになったとしても、私たちはなんら主張を変えるつもりはない。

企業はCMが炎上するとたやすくそのCMを引き下げるが、これも覚悟の問題ではないだろうか。クレーマーが悪いと確信しているのであれば、信念をもってCMを続ければいい。

そして重要なことだが、私たちは「言いがかりや度を越したクレーム」というとき、すでに顧客なのか外野なのかを重視する。すでに私たちにお金を払ってくれている場合は、きわめて礼節を重んじて接し、それでもお気に召さない場合はすぐさま返金するようにしている。

今回の吉野家の場合、問い合わせ主は外野ではなく220回か、それ以上に来てくれているお客だった。すでにお金を払い続けてくれている。一連の経緯を踏まえれば、吉野家に非があり、言いがかりや度を越したクレームとして強く出られる案件ではないだろう。さらに、今後のことを考えれば無数に来店してくれていたに違いない。吉野家はBtoB企業ではなく、BtoC企業なのだ。

机上の空論うんぬんではなく現実的な対応が必要

もともと企業のリスク管理とは、煎じ詰めて言えば、企業価値の毀損を防ぐ目的だ。だから、机上の空論うんぬんではなく、現実的な対応が必要だ。もしかすると、究極的には丼へ実名ではない名前の記名は、法律的に考えて問題があるかもしれない。そして、その要望に対して冷たくすることは、杓子定規には正しかったかもしれない。ただ、その理屈を超えて、私たちは顧客から「選ばれなければならない」立場にいる。

もちろん、理屈を全面に出して闘い続けるのも企業の自由で、それは尊重されねばならない。

それでもなお、私たち企業はレピュテーションリスクを防ぎ企業価値を保持せねばならない。そう考えることが現実的だろう。「社会や世間はバカだ」と考えるのは自由。しかし、その自由の代償もある。

吉野家の今回の事件は、今後の企業と消費者のコミュニケーションについて、企業が意識しなければならない「覚悟」への姿勢を問いかけている。

坂口 孝則 調達・購買業務コンサルタント、講演家

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さかぐち たかのり / Takanori Sakaguchi

大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。著作26冊。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。日本テレビ「スッキリ!!」等コメンテーター。

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