(第41回)日本の大学教育は社会の要請に無反応


 このように、アメリカの大学や日本の私立大学に比べると、旧帝国大学は、社会の変化からは隔絶された存在であることがわかる。

現実からの乖離は、工学部においても見られる現象だ。前回述べたように、遅れて工業化した日本は、欧米諸国の伝統的大学にはない工学部を国立大学に設立した。その時点で、日本の大学は現実社会との関係で欧米の大学より実際的であった。しかし、現在の工学部は伝統的な工学にとらわれている。コンピュータサイエンス学科がごく最近までなかったことが、それを示している。

なお、私は大学が社会の要求に受動的に応えるべきだと言っているのではない。

第一に、大学の役割は社会の変化を先導することであり、受動的に対応することではない。しかし、対応さえできず、社会の動きから取り残されているのが実態だ。

第二に、大学の重要な機能の一つは、哲学や歴史学など、産業活動に直接の効用を持たない学問の研究を行うことだ。目先の実用性に振り回されては、百年単位での長期の成長は望めない。しかし、農学は実学である。

また、私は農学が不要だとも思わない。問題は現実の産業構造と比べて大きすぎることである。

それがもたらす問題は、新しい学部や研究科を作れないことだ。高度成長期には大学の規模が全体として拡大したから、古いものを残しても、新しい学部を設立できた。しかし、経済が停滞すると、スクラップアンドビルドしか方法はなくなる。

伝統的な大学での後継者育成は、寺子屋式の大学院教育で、先生の研究分野をそのまま引き継ぐ形で行われている。だから、外から相当の圧力が加わらないと「スクラップ」ができない。

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