山梨にある「世界最古の温泉旅館」知られざる秘密 〝温泉旅館の親父を貫け"の奥深い意味
日本に数多ある温泉には、圧力が弱くポンプで地中から汲み上げ、湯量が足りないために加水しているところも多い。なぜ水圧が低くなるかというと、簡単にいえば1つの源泉に複数のパイプが差し込まれているからだ。
水風船をイメージするとわかりやすいかもしれない。水風船に(割れないという仮定で)複数のストローを差すと、1本1本のストローから飛び出す水の勢いは分散される。
一方、自噴圧17気圧というのは、地中から汲み上げるどころか、自ら吹き出す圧力が強すぎて減圧器が必要になったほどのもの。慶雲館は、いわば「何億年もかけて湯を膨大に蓄え、まだ誰もストローを差していない水風船」を掘り当てたというわけだ。
なぜそれが可能だったのか。幸いにして先代の勘が当たったからとしかいえないが、「やると決めたら絶対にやる。それが先代のすごさでした」と川野社長は振り返る。
現在、「源泉かけ流し」といえる温泉旅館は全国の1%にすぎないといわれている中、慶雲館は、大浴場はもちろん各客室の風呂、シャワー、給湯に至るまで、すべて加水・加温なしの源泉だ。これはおそらく日本で唯一だという。湯温52℃では高温すぎるため、藤原真人が発見した伝統的な自然湧出の湯と調合して適温を保っている。
古くは藤原真人が発見し、さらには先代が新たに掘り当てた自然の恵みが、今の慶雲館が持つ唯一無二の価値を作っているのだ。
信念あるところに、リピーターが集う
温泉旅館としての総合力を維持・向上することに努めている慶雲館がもっとも重きを置いているのは、訪れた客に極上の時間を提供することだ。かといって安易に流行に飛びついたり左右されたりはしない。
たとえばコロナ禍以前、観光業ではインバウンド需要をいかに取り込むかで盛り上がっていた。旅行会社を通じて、あるいは自社サイトで外国人観光客にアピールする宿も多かったと見えるが、慶雲館ではいっさいそうした広告宣伝は行わなかったという。
慶雲館は全室和室、数寄屋造りの純和風旅館だ。玄関で靴を脱いでスリッパに履き替え、湯上がりには浴衣を着用し、布団で寝る。特に欧米人には馴染みがない習慣だが、慶雲館は靴のまま上がれるようにもしなければ、ベッドを設けた客室も作らず、「当館は純和風旅館である」ということを頑なに守ってきた。
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