上皇后を大笑いさせた日本通のフィリピン人作家 ショニール・ホセ氏が残した愛憎混じる日本への言葉

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戦中体験のゆえに「日本を赦したわけでも忘れたわけでもない」としながらも、日本人の職業倫理と職人気質を高く評価した。「人材を除けば資源に乏しい国が、ここまで豊かになるうえで大事だった。発展の基礎はいつも倫理や道徳だ」「日本に行く若い人には、民芸品の展示されている博物館を訪ねるべきだと勧めている。日本が発展した基礎が理解できる。民芸品の美、職人芸は欧米を超え、アジアの他国にない質の高さがある」。父の影響からか、次男のエフレイムさんは日本の古美術を修復する表具師となった。日本で修業を積み、アメリカで開業している。

日本に対する愛憎の象徴として天皇の存在があった。

「昭和天皇は戦後欧米を訪問し『謝罪』はしても、最も犠牲を強いた東南アジアに来ることはない」と批判していた。ところが2016年、平成天皇(現上皇)がフィリピンを訪問した。天皇は「マニラの市街戦においては、膨大な数に及ぶ無辜のフィリピン市民が犠牲になりました」と、多くの日本人が記憶にとどめない1945年2月のマニラ市街戦に言及し、フィリピン人の戦死者がまつられる無名戦士の墓を訪問、国籍未取得者も含む多数の日系人と懇談した。

書きたいのは「セックス・アンド・バイオレンス」

大統領主催の晩餐会で、「貴国の国内において日米両国間の熾烈な戦闘が行われ、(略)貴国の多くの人が命を失い、傷つきました。このことは、私ども日本人が決して忘れてはならないことです」と答辞した。慰霊の旅であった。

ホセさんは招待を受けて、日本大使公邸で催された両陛下のレセプションに出ることにした。現場に居合わせた私が観察していると、短い時間だったが、当時の美智子皇后と懇談していた。退出したところを捕まえて会話の様子を聞いた。

皇后から「最近はどんな小説を書いていらっしゃるの」と聞かれたので、「セックス・アンド・バイオレンスです」と答えた。すると、90歳を超えて杖を突くホセさんの答えがおかしかったのだろう。皇后は大笑いされたという。でもホセさんは真顔で「本当だ。これから書きたいテーマはセックス・アンド・バイオレンスだ」と私に話した。

その類の小説をついぞ目にすることはなかったが、死ぬ間際まで現役の作家であり、毎週長文のエッセイを新聞に寄稿していた。新聞に定期的に連載を持つ世界最高齢のコラムニストだったのではなかろうか。

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