インドがウクライナ侵攻に「NO」と言えない事情 安全保障環境ゆえに軍事面でロシアと深い関係

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インド有力英字紙『ヒンドゥー』は2022年2月28日付の社説で、安保理での棄権は「既定路線」としながらも、「インド政府は世界の安全を脅かす紛争に対して毅然とした態度をとることなく、自国が『大国』になれるか考える必要がある」「曖昧な立場は強者が弱者を武力で侵略することに対する肯定と受け止められてしまうが、インドは自らの周辺地域でそうした行為に抗議してきたのではないか」と指摘した。

また、2014年まで長く政権与党の座にあった最大野党・インド国民会議派のなかでも、元国連事務次長で現在は下院議員を務めるシャシ・タルールが「安保理常任理事国入りを目指すインドが、国際的に認められている原則に対して沈黙することはいかがなものか」と疑義を呈している。

インドこそ解決への仲介役に適役

インドはロシアと密接な関係にあるが、そのインドだからこそ担いうる役割がある。ロシアと国際社会の仲介役だ。ロシア軍の侵攻が始まった2022年2月24日、モディ首相はプーチン大統領と電話会談を行い、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)の対立を解決する唯一の方途は対話だと主張するとともに、暴力の即時停止を求めた。

その訴えは実らなかったが、インドとロシア首脳のパイプが生きていることを印象づけた。ロシアとしても、戦況が思うように進まず、事態が長期化する事態になれば、いずれ「落としどころ」を模索することになるだろう。その際にインドが米欧との橋渡しをできれば、事態の解決に貢献することができる。ウクライナには約2万人のインド人(多くは医学生)がおり、自国民保護の観点からも早期解決はプラスになる。

日本もインドに対してこの点を提起すべきだ。ウクライナ情勢次第だが、岸田文雄首相は2022年3月中に訪印を予定していると報じられている。モディ首相に対しロシアへの働きかけを促すことこそ、最優先で取り組むことではないだろうか。そうすることで、インドの立場を損なうことなく、日米豪印によるクアッドとしての結束を維持していけるはずだ。

(本稿は筆者個人の見解であり、所属先との見解を表すものではありません。)

笠井 亮平 岐阜女子大学南アジア研究センター特別客員准教授

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かさい・りょうへい

1976年生まれ。中央大学総合政策学部卒業、青山学院大学大学院で修士号。専門は日印関係史、南アジアの国際関係。著書に『インパールの戦い』など。

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