「部下が動かない」と嘆くPDCA信者に欠けた視点 権限のないリーダーが結果を出すトヨタの強み

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チーフエンジニアに求められる管理、マネジメントとは、作業計画、予算・スケジュール管理というPDCAサイクルのコントロールと、具体的な開発業務におけるOODAループの業務支援ということになります。つまり、PDCA管理者とOODAマネジャーという2つの顔を持っているのです。そこにこの制度の真の秘訣があると考えられます。

不確実な状況下ではOODAループを回すことが必要です。しかし、そこには計画がないため、ややもすればコストばかりがかかり何ら成果が上がらないということも生じえます。いわば「行き当たりばったり」のOODAです。このようなOODAから効率的なOODAマネジメントを目指していくために重要なのが、PDCAサイクルでコントロールをかけるということです。つまり、OODAループとPDCAサイクルは互いに矛盾するものなのではなく、むしろ相互に補完的な関係にあるのです。

ただし、トヨタのチーフエンジニアのように、PDCA管理者とOODAマネジャーを兼務するのは例外的であり、一般的にはPDCA管理者が上位にあり、その部下がOODAマネジャーとして現場で陣頭指揮をとる場合が多いといえます。この両者を兼任できる人材が確保できている点にトヨタの強みがあります。しかし、それが難しい場合は、両者は明確に分けるべきでしょう。というのは求められる役割が異なるからです。

PDCA管理者の理想は心理カウンセラー

OODAマネジャーの上長となるPDCA管理者は、スケジュールや仕事の内容について関係部署をコントロールする立場にありますが、現場がOODAを高速で回すためには、プロジェクトのプロセスをOODAマネジャーに一任することになります。

とはいえ、プロジェクトに対してまったく関与しないというわけではありません。ダッシュボードによる進捗状況の把握は必要ですし、その報告を求めることは、そのための準備に多くの労力を要しないのであれば問題ないでしょう。

むしろ、中間報告によって、入り口部分で課したミッションを軌道修正すべきかどうか議論することも必要だと思われます。ただし、業務内容に直接関与するのは避けるべきであるということです。

もちろん、業務内容についても精通している場合もありえます。その場合であっても現場介入はNGです。現場介入をするのでしたら、最初から現場で陣頭指揮をとればよいのです。上位管理者の現場介入は、現場の自発性や自律性にマイナスの影響を与えます。そうするとOODAループを回すことが難しくなり、上司にいちいちお伺いを立てなければ先に進めないということが生じえます。このような事態を避けるためにも、上位管理者の現場介入は回避されなければならないのです。

ただし、業務に直接関与するのでなければ、上位管理者の支援はOODAループの高速回転にとってプラスの作用を及ぼします。この場合の支援とは、情緒支援、内省支援といった心理支援です。プロジェクトメンバーやリーダーに対して、進捗状況に対して激励し、心理的な相談にのるといったことです。

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