「部下が動かない」と嘆くPDCA信者に欠けた視点 権限のないリーダーが結果を出すトヨタの強み

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このような心理支援は、プロジェクトメンバー、リーダーの心理的安全性を高めることにつながります。OODAループを回す場合でも、否、OODAループだからこそ、失敗する可能性が高く、心理的安全性がなければ新たにチャレンジし続けるということが難しくなります。この心理的安全性を確保するうえで、上位管理者の心理的支援という役割は決定的に重要です。言い換えれば、PDCA管理者は、心理カウンセラーの役割を演じなければならないのです。

OODAマネジャーの理想はタレントのマネジャー

一方、OODAマネジャーとしての現場リーダーの役割は、心理カウンセラーというよりも、より業務に踏み込んだ支援や場合によっては業務命令が必要になります。リーダー自身が業務に直接関与しているのであれば、指示、命令を出すのは必要です。しかし、業務を全体的に統括しているものの、個々の業務についてはメンバーに一任している場合には、指示、命令は避けるべきです。

このような場合に求められるのは、業務支援です。心理支援も大事ですが、リーダーは業務にも精通しているため、業務上のアドバイスがより重要でしょう。しかし、業務命令であってはいけません。それはすでに指摘したようにOODAループの高速回転を邪魔することにつながりえるからです。業務命令ではなく業務支援こそが、OODAマネジャーに課せられた主要任務ということができるでしょう。

それは芸能人、タレントのマネジャーの業務に類似しているのではないでしょうか。タレントのマネジャーは、マネジャーという言葉はついているものの、タレントの上司という立場ではなく、むしろタレントが気持ちよく働き、現場でその実力をいかんなく発揮できるように支援していくことに注力しています。一般のOODAマネジャーに求められるのは、このようなタレント・マネジャーの支援者の役割なのです。

行き当たりばったりのOODAから、効率的なOODAマネジメントへシフトさせるために、PDCA管理者が、心理カウンセラーのごとくOODAマネジャーに対して心理支援を実施していくと同時に、OODAマネジャーが、タレント事務所のマネジャーのように現場担当者の業務支援を行うことが求められます。このようなPDCA管理者、OODAマネジャーの協力関係を構築することが、OODAマネジメントの進化にとって重要なのです。

私は、しばしばPDCAを信奉する経営者から、OODAループではマネジメントは行えないという批判を受けることがあります。しかし、それはPDCAとOODAは対立するものであるという誤解にもとづいています。もちろん、同一レベルの業務に関しては、両者は代替的です。しかし、垂直関係としては、両者は補完的であり、PDCA、OODAの両者の効率化、進化にとっては、PDCAとOODAの垂直関係を構築し、両者を共存させることが決定的に重要です。なかでも、トヨタのチーフエンジニア制度がうまくいっている大きな要因は、リスペクトとともに、チーフエンジニアがこの両者を兼務できている点にあるのです。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

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はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

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