BOP攻略:インドの6400円冷蔵庫に見る「整合性」《それゆけ!カナモリさん》

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■インドのイノベーションに学ぶ

 日経の記事によれば、「インド西部マハドラシュ州の郵便局と提携した」とのことだが、契約主体は政府系の「インド・ポスト」ではないかと思われる。販売方法は、郵便局員が受注、配達、集金を担うというしくみで、受注1件ごとに275ルピー(約500円)を(ゴドレジ社が)郵便局側に支払うというバックマージン方式だ。同州の郵便局員は約6万3千人、うち配達人が8600人。冷蔵庫のない世帯の多い農村部にも拠点・人員を配置する点に着目して提携したという。

 従来にない新たなポジショニングの商品は、説明を要する商品である。その点、配達員による販売であれば、その機能を担うことができる。また、(市場の地理的広さが判らないが)8600人という人数は、ある程度のカバレッジを確保できているのだろう。ターゲティング、ポジショニング、製品(Product)、価格(Price)、販売チャネル(Place)の整合性が確保できていることが判る。

 では、マーケティングミックス、いわゆる4Pの最後の1つ、Promotionはどうだろうか。4PにおけるPromotionは、「コミュニケーション」と読み替えることが多い。意味するところは、「販売促進(セールス・プロモーション)」や「広告」だけではなく、「広報」や、人が直接説明や実演、サンプル配布や営業を行う「人的販売」までを、きちんと総合的に組み合わせて考えるということだ。「コミュニケーションミックス」という。その点においては、販売チャネルである郵便配達員が「人的販売」をも担っている。さらに昨今は「口コミ」もコミュニケーションミックスに加えて考えるが、一連の施策で対象地域に口コミが伝播することも期待できる。

 G・サンドラマン氏がBOP層への道筋は簡単なものではなく、いくつかの挑戦に直面しましたというとおり、「チョットクール」はいくつもの難所を乗り越えた。最後の難所を、販売チャネル(Place)とコミュニケーション(Promotion)という問題解決に効く1粒で2度美味しい「郵便局と販売提携」を実現させたのである。従来のチャネルの枠組みにとらわれない、とてもイノベーティブな発想だ。

 今一度認識したいのは、BOPの対極にある成熟市場である日本におけるマーケティングでも、「整合性」は欠かすことのできない大原則であるということ。振り返ってみれば、我々はまだ、「1億総中流マス・マーケティング」の時代の名残をどこかでひきずってはいまいか。「マス広告が効かない」。よく聞く愚痴の一つだが、もう言い訳は充分だ。社会が多様化、細分化、フラット化した今、日本よりはるかに多様性を持ったインドでの試みがヒントを与えてくれる。市場、社会が複雑になっている。そんな視点で、成功したマーケティング戦略の事例を見直してみることもお勧めしたい。
《プロフィール》
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2010年10月29日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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