妻も育む、大きな夢
夫の夢は「みんなが幸せな会社」。中古住宅をアート塗装で生まれ変わらせ、新しい市場を作りたい。一方、妻の夢は「コミュニティカフェを作ること」。建物2階にある広いスペースをショールーム兼カフェにして、子育て世代が集まってお茶を飲んだり、塗装のワークショップができるようにしたいと考えている。
着想が生まれたきっかけは、地元の盛岡市にある、もりおか女性センターが開いた、女性向けの起業塾「芽でる塾」に冴華さんが参加したこと。受講生の多くは「やりたいことがたくさんあるけれど、家庭の事情などで難しい」女性たち。「このカフェを、みんなが夢をかなえる場所にしたい」と冴華さんは意気込む。
たとえば「ワンデーシェフ」。料理好きで、いつか自分のお店を持ちたいと考える人はたくさんいるが、急にお店を開くのは難しい。1日だけ、自分が作ったものを出すことなら、できそうだ。ネイルサロンを開きたい人に小さなテナントとして使ってもらうこともできるだろう。こういう場があれば、仕事が減りがちな冬にもスペースと人を活かすことができるかもしれない。
子育ては秀郎さんの考えも変えた。「初めて子どもができて、女の人は本当に大変だなあと思いました。ぜんぶ子ども中心になりますからね」。子どもの頃、母に苦労をかけたことを思い出し、悪かったな……と考えることもある。そして、今、皿洗いと掃除、そして娘の送り迎え当番は彼の仕事だ。朝、保育園に送る当番の日は「お風呂に入れて髪もかわいくしていきます」と目じりが下がる。
基本的には夫婦で家事育児を回す。保育園が少ない問題は、盛岡市も東京近郊と変わらない。両立の課題はあるけれど、夫婦からは、不満や愚痴はほとんど出てこないのは、乗り越えた山が大きいからかもしれない。
それに何より、ふたりには明確な夢がある。アート塗装で経営を安定させ、コミュニティカフェで冬場の仕事と地元の母親の居場所を作り、建設業界の現場のイメージを変える。どれも一筋縄でいかないはずだが、秀郎さんはきっぱり言う。「うまくいくかはわかりません。でもやってみます」と。
「今、従業員は何人ですか?」と問うと「○○くんに××ちゃん……」と夫婦は経営者というより、お兄さんお姉さんのような表情で「みんな」の名前を挙げていた。結婚、起業、経営、育児……。いくつもの山を越えて進化した、若く器の大きい夫婦がそこにいた。
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