自民党長期政権の政治経済学 利益誘導政治の自己矛盾 斉藤淳著 ~利益誘導政治の本質を深いレベルで考えさせる

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 東京への陳情合戦を「現代の参勤交代」と評しているが、それは取りも直さず誰が実質的な主人であったかをよく示している。自民党が与党であり続けるという想定の下では、自治体や団体、有権者こそが、自民党政治家への忠誠を示すことを求められていたというのである。むろん、補助金などの「ご利益」を獲得するためである。そして国会議員の側は、支持者・団体の忠誠を監視し、場合によっては報復措置を講じるため、後援会や地方政治家を組織し動員していた、というのである。

本書の実にユニークで鋭い分析をいろいろとご紹介できないのは残念だが、ほんの一つだけ挙げておこう。

大規模公共工事は自民党が駆使した「魔法の杖」のように言われることが多いが、実際は違う。新幹線や高速道路はできてしまえば、選挙には役立たない。むしろマイナスである。個別の裁量が利く補助金とはまったく性質が違うというのである。実に皮肉なことに、インフラ整備の公共投資はひたすら先延ばしにし、「低開発」の状態に止めておくことが支持のつなぎ止めには有効だったのだ。

自民党政権、その利益誘導政治の本質は何だったのか、実に深いレベルで考えさせられる。

さいとう・じゅん
米国エール大学政治学准教授。1969年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻博士前期課程修了。エール大学大学院博士課程修了、Ph.D.(政治学)取得。2002~03年に衆議院議員(山形4区)。米国ウェズリアン大学准教授などを経る。

勁草書房 3150円 247ページ

  

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