自民党長期政権の政治経済学 利益誘導政治の自己矛盾 斉藤淳著 ~利益誘導政治の本質を深いレベルで考えさせる
「なかなかのものだなあ」。これが率直な感想である。確かに少しばかり取っ付きにくい。また、評者の自民党観や政官関係についての見解とはやや異なる。しかし、質量ともにまさに力作と言うべき研究書である。
何がすごいかと言えば、とにかく膨大なデータを集め、統計の手法を駆使して何が言えるのか、あるいは言えないのかを考え抜いたことだろう。選挙区ごと、また全市町村ごとのデータをはじめ、データの量は半端なものではない。
もう一つの本書のすばらしさは、これまでの政治学理論について十分に検討し、経済学の領域の理論をも導入しつつ、極めて斬新な説明を構築したことである。参与観察(斉藤氏は1年弱の間、民主党の衆議院議員であった)を重要なテコとしながら、ゲーム理論を駆使し、ロジカルな推論を縦横にめぐらせている。日本政治全体を見渡そうとする視野の広さ、個別の論証へのこだわり、そして全体としてのしっかりとしたストーリー性。これらをすべてこなすのは、なかなかできることではない。
「逆説明責任体制」というとらえ方が本書の根幹にある考え方だ。通常の民主主義では有権者が「主人」であり、政治家はその主人からの支持を得るために競争し、自分の行動を説明しなくてはならない。しかし、自民党政権時代にはまったく逆のロジックが成立していたと言う。