自民党長期政権の政治経済学 利益誘導政治の自己矛盾 斉藤淳著 ~利益誘導政治の本質を深いレベルで考えさせる

拡大
縮小
自民党長期政権の政治経済学 利益誘導政治の自己矛盾 斉藤淳著 ~利益誘導政治の本質を深いレベルで考えさせる

評者 野中尚人 学習院大学法学部教授

 「なかなかのものだなあ」。これが率直な感想である。確かに少しばかり取っ付きにくい。また、評者の自民党観や政官関係についての見解とはやや異なる。しかし、質量ともにまさに力作と言うべき研究書である。

何がすごいかと言えば、とにかく膨大なデータを集め、統計の手法を駆使して何が言えるのか、あるいは言えないのかを考え抜いたことだろう。選挙区ごと、また全市町村ごとのデータをはじめ、データの量は半端なものではない。

もう一つの本書のすばらしさは、これまでの政治学理論について十分に検討し、経済学の領域の理論をも導入しつつ、極めて斬新な説明を構築したことである。参与観察(斉藤氏は1年弱の間、民主党の衆議院議員であった)を重要なテコとしながら、ゲーム理論を駆使し、ロジカルな推論を縦横にめぐらせている。日本政治全体を見渡そうとする視野の広さ、個別の論証へのこだわり、そして全体としてのしっかりとしたストーリー性。これらをすべてこなすのは、なかなかできることではない。

「逆説明責任体制」というとらえ方が本書の根幹にある考え方だ。通常の民主主義では有権者が「主人」であり、政治家はその主人からの支持を得るために競争し、自分の行動を説明しなくてはならない。しかし、自民党政権時代にはまったく逆のロジックが成立していたと言う。

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT