(第35回)なぜ日本だけがデフレになるのか

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 以上で見たのは、供給面での違いである。アメリカでは、製造業より生産性が高いサービス産業が成長し、これが単に雇用を吸収しただけでなく、価格も所得も引き上げた。それが、高付加価値サービス業の発展を加速した。つまり、アメリカでは好循環が生じたのである。

ところが、日本では、製造業が放出した労働力の受け皿として、アメリカのような先端的サービス業が成長しなかった。このため、低付加価値サービス業が吸収せざるをえなくなり、賃金が下がったのである。それが所得を下げ、高付加価値サービス業成長のネックになった。つまり、日本では悪循環が生じたのである。

日本では、製造業の供給能力は大きい。しかし、それは、エレクトロニクスなど、韓国や台湾のメーカーと競合する分野のものだ。ここでは、仮に輸入品による直接の影響がなくとも、賃金が新興国の影響で低下してしまうという問題がある。日本で不足しているのは、生産性が高いサービス業の供給能力なのである。アメリカでは、新興国製品と競合するような生産はあまり重要なウエイトは占めていない。

デフレの議論において需要側の要因が強調されることが多い。しかし、実は供給側の要因が重要なのである。問題は、ここで述べたような日米間の違いがなぜ生じたかである。それについては、後で考えよう。

なお、「内需主導が必要」と言われるが、これは需要面でのことだ。しかし、供給面の条件変化が重要なのだ。

つまり、産業構造の転換が必要なのである。需要と供給のどちらが重要かについては、長い論争がある。供給面の条件があれば需要がついてくるかどうかは、議論の余地がある。だから、供給条件の整備は、経済活性化の十分条件にはならないかもしれない。しかし、必要条件であることは明らかだ。

U.S. Bureau of Labor Statistics, Consumer Price Index
総務省 統計局、消費者物価指数
厚生労働省、毎月勤労統計調査


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2010年10月16日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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