「妊娠したら出身国へ送還」が常識になっている
妊娠・出産社員への嫌がらせとしての「マタニティ・ハラスメント」(マタハラ)は、少子化を促し労働市場への女性進出も阻む深刻な雇用問題とされ、2017年から企業の防止措置が義務化された。
だが、外国人技能実習生の女性たちは、「企業の防止義務」以前に、国主導の「官製マタハラ」にさらされてきた。「苦肉のマタハラ回避策」だった帰国出産の道もコロナ禍による郷里への定期便の停止がふさぐ。幾重もの枷が外国人女性労働者に沈黙を強いている。
東京に本社を置く中堅電子機器メーカーの工場で、防災関連機器の製造にあたっていた22歳のベトナム人技能実習生は2020年9月、体の変調に気づいた。妊娠だった。
父母を支えようと2017年、来日し、永住資格を持って日本に定住しているベトナム人男性と知り合った。赤ちゃんができたことはうれしかった。だが、同時に「仕事を続けられないかもしれない」という不安が頭をもたげた。在留資格は実習のためだけとされているため、「妊娠したら出身国へ送還」は実習生の間では常識になっていたからだ。
渡航費は父母が近所から借金して捻出してくれた。働けなくなったら返せない。多くの女性実習生は、いったん帰国して出産している。自分も郷里で出産し、父母に子どもを預けて再来日し、実習を再開しようと思った。
だが、コロナ禍が立ちはだかった。感染拡大を防ぐためベトナム政府が2020年3月から入国制限を始め、定期運航便は停止されていたからだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら