一方、コロナ禍のなかの外国籍労働者の大量解雇に、労組を結成して対抗する女性たちも登場し始めている。
2020年7月。東京に多数のホテルを展開するホテルグループの清掃労働者、長谷川ロウェナは、他のフィリピン人労働者ら約40人と、全統一労組に加入した。
長谷川は53歳。1980年代に来日し、スナックや居酒屋の従業員、パブの経営などを経て今の仕事に入った。新型コロナの拡大前には、日給9000円で週5-6日のフルタイムという最低賃金水準で働いてきた。繁忙期にも人員は増やされず、1日15時間以上働いて帰ったら寝るだけ、という日も少なくなかった。
2020年3月からのコロナの感染拡大で客が減り、シフトは週1日に激減した。70~80室を5人一組で掃除していたが、それも3人一組に減らされ、残業代の節約のためか、監視カメラがつけられて定時に終わらせるようせかされ、過重労働でひざを壊す同僚も出た。
子どもがいる人も郷里に仕送りする人もいる。週1日のシフトでは生活できない。コロナによる休業には手当が出るとニュースで知ったが、会社は申請してくれなかった。労働局で「個人では手続きが大変なので労組の支援を受けては」と助言され、全統一労組に駆け込んだ。
違反をなかったことにする「労働者ロンダリング」
長谷川は日本人と結婚し、配偶者ビザを経て、現在は永住者ビザを持つ。それでも、外国人女性が働ける場は限られる。そんななかで清掃労働は女性でも入職しやすく、厳しくても働けるだけでありがたいと思っていた。
だが、労組とつながって初めて残業代や有給休暇の権利を知った。「日本語の不十分さと外国人女性の仕事の少なさに付け込まれ、モノのように使われていた」と気づいた。
これらの権利を回復しようと、2020年10月、ホテルに「分会」として労組が結成された。7割は女性で、長谷川は分会長を引き受けた。会社は交渉を拒否し2021年1月には300人ほどの全従業員に解雇を通告した。その結果、労組は約60人に膨らみ、同年7月、長谷川らは残業代の返還や雇用継続の確認などを求めて東京地裁に提訴した。
同分会を担当する全統一の坂本啓太は言う。
「労働法違反が発覚し当事者が声を上げると会社側は解雇し、別会社をつくる。これを通じて当事者とは違う国の出身者を大量に雇用し、何食わぬ顔でホテルは営業を続ける。これはマネーロンダリングならぬ労働法逃れの『労働者ロンダリング』だ」
「送還」という国境を越えた入れ替え労働と言葉の壁、女性の立場の弱さの三重の枷が、外国人女性労働者の沈黙を生む。そうした沈黙の労働者の増大が、コロナ禍の中の紛争を見えにくくした。だが同時に、その過酷化は当事者たちの反発力をも生みつつある。
その綱引きの行方が、労働市場の行方を決める。
(文中敬称略)
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