夫が単身赴任の家庭を襲ったコロナ禍の厳しさ
2020年4月、緊急事態宣言が発せられ、伊藤エリカ(30代、仮名)が働いているカフェが入居する商業ビルが閉じた。店は完全休業となり、伊藤は収入を断たれた。
カフェは、外食店を多角的に展開する大手企業が経営し、伊藤は1日5時間、週4~5日契約のパート社員として3年間働いてきた。勤務時間は「正午から午後5時まで」とされていたが、曜日は繁忙度や人員によって不定期に割り振られるシフト制で、月収は10万円程度だった。
10万円は伊藤の家庭にとって不可欠な生活給だった。正社員の夫は単身赴任中で、その収入は単身赴任先の家賃、食費や光熱費などの夫の生活費、住宅ローンの返済でほぼ消える。そのため、伊藤と子ども2人の生活費、保育料、そして住宅ローンの一部を、伊藤の収入が支えてきたからだ。
結婚前は飲食業界で正社員として働いていたが、結婚を機に退職した。夫に「家庭に入ってほしい」と言われ、朝から夜中までの働くこともある不規則な勤務に体がもたないとも思ったからだ。
だが、子どもが保育園に入り、経験を生かせる同じ業界でまた働きたいと、就活を始めた。ある店では短時間正社員もあると聞いて希望したが、「それは正社員の育休復帰後の働き方」と言われ、あきらめた。今の店も、正社員は長時間労働の店長だけで、業務はパートとアルバイトが支えている。家庭と両立できる正社員の少なさを、思い知らされた。
そんな職場をコロナ休業が襲った。会社は、休業前に働いていた分の1万5000円と、確定していた1週間のシフトの賃金分の6割、1万5000円だけを休業手当として払った。
労働基準法26条には「使用者の都合により、労働者を休業させた場合には、休業させた所定労働日について、平均賃金の60%以上の賃金(休業手当)を支払う必要がある」とされている。一応はこれに則った措置だったが、それ以降については「シフトが入っていないから雇用契約がない」とされ、無収入になった。
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