「夫セーフティネット」崩壊が突きつける過酷現実 働く女性を襲うコロナ禍の「沈黙の雇用危機」

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「夫」がいたとしても、いまや、それがセーフティネットになるとは限らない。1997年以降、日本の賃金は低下を続け、就業構造基本調査を分析した後藤道夫・都留文科大学名誉教授によると、25~29歳の男性雇用者のうち年収250万円未満は1997年の19.7%から2017年の30.9%に、30~34歳で8.8%から20.4%に、35~39歳で6.6%から15.5%に、40~44歳でも6.1%から13.5%に跳ね上がっている。

「働き盛り男性の賃金年収分布の大幅な落ち込みが目立っている。妻などが総出で働いて家計を支えなければ家計が成り立たない『多就業型』へ変化している」と後藤は言う。

NHKと労働政策研究・研修機構(JILPT)の共同調査(2020年11月13~19日)でも、妻の家計収入への貢献度は、正規女性で42.7%、非正規女性でも23.8%を占める。コロナ禍で妻の収入が減少した家庭の3世帯に1世帯が、貯蓄の取り崩しや食費の切り詰めを行っている。

伊藤の例が示すように、会社の都合で簡単に労働時間を切り縮めることができるシフト制度を通じ、コロナ禍は、男性や子どもを含む家計全般を追い詰めることになった。

「週1日勤務」という首の皮1枚のシフト

この仕組みは、失業すれすれの働き方も生んでいる。

パート社員として働く山田玲子(40代、仮名)は2020年5月、会社からの通知に言葉を失った。コロナ禍による経営不振を理由に、パート社員全員に「週1日勤務」を求める「お願い」が突きつけられたからだ。

山田は2015年、週3日、1日6時間という雇用保険未加入の契約で働き始めた。山田の場合も、小学校低学年の2人の子どもの世話で、残業が必須のフルタイム勤務にためらいがあったからだ。

子育ての手が離れたらシフトを増やせるかも、という上司の言葉を頼みに1年契約を更新して働き続け、2020年4月、「5年を超えたら無期雇用に転換できる」という労働契約法の規定に沿って無期雇用パートになった。そこをコロナ禍が襲い、休業が始まった。

4月は週3日分の休業手当が出たが、5月からは週1回のシフト、とされたため手当は3分の1に減った。会社は「シフト分は100%支給している」と言った。契約書に「概ね」「繁忙期と閑散期以外」とあったため、契約違反も問えなかった。家賃や教育費がかさみ、貯蓄ができなくなった。

ほとんどのパートは、辞めるか週1回かを迫られる形のなかで、泣く泣く「週1回勤務」にサインしたが、山田は断った。

会社側の社会保険労務士から「雇用保険もない労働者は立場が弱く、モノを言うとクビにされやすい」と脅しめいた言葉もちらつかされた。それでも、正社員には休業手当を出して休ませる一方、パートというだけで生活できない労働条件を強いることに納得できなかった。

だが、会社は山田に週1回しかシフトを入れなかったため、その条件で働くしかなかった。

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