社員の休業手当には雇用調整助成金(雇調金)が活用されている。「週1回」という首の皮1枚のシフトは、シフトをゼロにして「解雇」とみなされれば雇調金が認められなくなる恐れがあるからだ、との見方も社内には流れていた。
また、会社は上場を目指しており、そのための融資の条件として銀行から人件費削減要求が出ているとも言われていた。パートの休業手当を増やせば、経理上このコストが膨らむ。それを警戒している、というのだった。
週1のシフト労働の山田に、休業している正社員の分の仕事が集中した。昼休みが取れなくなり、残業の日も増えた。転職も、子育て女性は敬遠されがちで壁が厚い。
野村総研は2021年2月、山田のような「シフトが5割以上減少かつ休業手当を受け取っていない人」を「実質的失業者」と定義して推計したところ、全国の実質的失業者は女性で103.1万人(男性43.4万人)に上った。
総務省の「労働力調査」によると、女性の失業率は男性のそれを下回り続けている。
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だが、2021年3月21日付「東京新聞」は、12月の労働力調査での女性の公式失業者数78万人に、この103万人を加えると、男性のそれを上回っていると指摘した。
コロナ禍が女性に及ぼした深刻さが覆い隠されている
生活できないような極小労働でも失業とみなさない仕組みは、コロナ禍が女性に及ぼした深刻さを覆い隠し、多数の「見えない失業者」を生み出した。さらに、社会保険料負担を嫌う企業によって加入条件の週20時間に満たない短時間パートに抑えられ、休業助成金の対象ではないと言われる例も多い。
そうしたパートらの悲鳴に押されるように、厚労省は今回、次々と休業手当の支給要件を緩和、先に述べた個人で申請できる休業支援金は、そんな中で生まれた。コロナ禍で浮かんだ非正規へのセーフティネットの綻びの懸命の修復作業だった。
2021年5月、首都圏青年ユニオンは「シフト制労働黒書」を発表した。ここでは、休業手当のシフト制労働者への拡大、生活できるだけのシフトの最低保障の制度化、賃金の安いシフト制労働者が生活していけるような休業手当の底上げ、といった休業手当制度の改善策のほか、全労働者を雇用保険の加入対象にするなど、非正規労働者が失業した時の生活保障制度の創設・恒常化を求めている。
「非正規は家計補助、という架空の前提をまずやめること」
と、原田仁希委員長は言う。サービス産業化の中、パートが職場の8~9割を占める企業は珍しくない。職場の基幹労働力であり、家計に必須の担い手となったシフト労働者への支えを「女性は夫がいれば食べられる」という思い込みが阻み、それが、家計全体の貧困化をも促す――。「沈黙の雇用危機」の怖さがそこにある。(文中敬称略)
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