佐々木が扱った事例では、送り出し機関や企業が契約書や口頭で妊娠しないよう求めている。その結果、非難や送還を恐れ、だれにも相談もできないまま追い詰められる女性実習生は後を絶たない。
2019年1月には、中国人技能実習生の女性(22)が、神奈川県川崎市で、生まれたばかりの男児を民家敷地に放置したとして保護責任者遺棄罪に問われ、懲役1年6月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。
こうした事態に批判が集まり、同年、法務省は、男女雇用機会均等法9条(婚姻、妊娠、出産を理由とした不利益扱いの禁止)が外国人技能実習生にも適用されるとする通達を出した。だが、2020年11月にも、広島県東広島市で乳児の遺体が見つかり、産んで間もない子の遺体を遺棄したとの容疑で当時26歳のベトナム人技能実習生が逮捕された。
ジャーナリストで研究者の巣内尚子は、2020年5月から6月、オンラインアンケートを行い、在日ベトナム人77人(女性42人、男性35人)から回答を得た。
ここでも、契約書に妊娠を禁じるとあったため会社に告げられず、大使館による帰国チャーター便は希望者が多くてなかなか順番が来ず、出産の日が近づいて追い詰められている、という妊娠実習生の声があったという。
「取り替えれば済む」という企業の安易な姿勢を誘う
通達が機能しないのは、ネットなどを通じ「妊娠したら帰国させられる」という「体験的情報」が出回っているからだ。だがそれ以上に、短期で送り返す「入れ替え制度」が邪魔して息長い滞在ができず、労組やネットワークなどの支援組織がつくりにくい。
加えて、「取り換えれば済むこと」という企業の安易な姿勢を誘い、「よい働き手を育てて事業を発展させる」という合理性が働きにくい。
「定期的な入れ替え」で労働力だけを利用しようとする手法は、第2次安倍政権下の2015年、「女性活躍」を支える家事サービス要員として「家事支援人材」の名で導入された外国人家事労働者でも踏襲されている。契約は「上限3年」で1年更新なので、異議申し立てすれば送還される。働く場所は「国家戦略特区」という指定地域に限られ、職種も「家事」に限定されているため、転職先探しは至難の技だ。
2021年1月2日夕刻、東京で労組や反貧困団体がコロナ被害者の救援のために開いた「年越しコロナ村」に、フィリピン人の「家事支援人材」の女性が駆け込んだ。大手医療介護人材派遣会社「ニチイ学館」から雇い止めに遭い、在留資格で職種や働く場所が制限されているため働けず、駆け込んだ時の所持金は1000円しかなかった。
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