悩んだ末、相手の男性と相談し、その実家の協力で日本で出産し、コロナ禍が落ち着いて一時帰国できるまでしのぐ案に落ち着いた。思い切って会社に相談すると、快く了解してくれた。
上司は「彼女の希望をかなえたいという思いと同時に、企業としての経営判断もあった」と話す。現場の仕事を敬遠する日本人が増えた。そうした仕事を担う優秀な戦力はぜひとも引き留めたい。同社はベトナムにも工場があり、彼女を支えれば現地での会社の評価も高まり、ベトナムの優秀な人材をもっと採用できる。
「少子高齢化社会では、社会の一員として長期に働く外国人労働者こそ必要だ。そのためには安心して出産できる態勢は重要」と上司は説明する。
会社は技能実習計画の認定などを担当する「外国人技能実習機構」の助言に沿って、「技能実習実施困難届」を出し、女性は法定に沿って産休をとった。2021年3月、女の子を出産、1年間の育休も認められて相手の男性の祖母の家での赤ちゃんとの暮らしが始まった。
だが、順調だった生活に国が待ったをかけた。
当初は「帰国待機」の在留資格しか認められず
育休中の2021年9月、在留資格(技能実習)の期限がやってきた。会社は8月、更新手続きに入った。ところが、東京出入国在留管理庁は、帰国のための「特定活動(就労不可)」の在留資格しか認められないという。
「実習実施困難届」が出ているので実習はできないはず、だから帰国待機の在留資格しか出せないとの理屈だった。
出産は病気やケガとは違う。しかも、コロナ禍で帰国の見通しが立たないなか、実習が再開できなければ育休後の生計が立てられない。国主導のマタハラが企業の善意を押し返した形だ。
帰国待機では就労可の在留資格もあるが、これは学業との両立が必要な留学生などを想定したもので、週28時間以内しか働けない。一定以上の就労時間が必要な雇用保険や健康保険などは、継続できない場合も出かねない。労働局に相談しても「労基署は雇用継続が可能な場合の機関であり、在留資格による雇用継続可否ついては回答できない。入管に確認してほしい」と言われた。
困った会社側は、実習生との紛争解決の際に知り合った、外国人も加入できる労組「全統一労働組合」に相談した。その仲介で国会議員も立ち合い、法務省、厚労省との話し合いが行われた。その結果「技能実習を再開できない理由はない」と法務省は認めた。
まず、フルタイムで就労できる「特定活動(就労可)」で在留資格を更新し、改めて「技能実習計画書」を「技能実習機構」に提出し、許可されたら在留資格を技能実習に変更し、特定活動として働いた期間も技能実習を実施したものとしてさかのぼって認めることになった。
だが、「こうした解決例はまれだ」と全統一の佐々木史朗書記長は言う。実習生は定住を想定しない一時的なものという建前がある。このため、実習生の42%は女性なのに、妊娠や出産は原則、想定されていない。
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