「国のために死ねるか」西欧近代社会の残酷な本質 国民国家の漂流と「中世化」現象が示唆すること

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木村:ユダヤ人排除が本格化したのは、どうも十字軍あたりかららしい。歴史家の上山安敏氏が「十字軍の運動は、ヨーロッパ人にとって排除の心理と深くかかわっている」と指摘したのは重要です。中東への遠征の費用をユダヤ人の高利貸しから借りたことから、現代に通じる反ユダヤの諸問題が噴き出してくるわけですね。

水野:十字軍遠征の資金確保のために、キリスト教徒がテンプル教団を組織して銀行業を営むようになりました。お互いに商売敵となるわけです。当時のキリスト教徒はユダヤ人から借りて、たぶん返せなかったのでしょう。獲得したものよりも借金のほうが大きかったので、スペインから追放された。イタリアのヴェニスの商人はゲットーで、囲まれたところに住まわせて隔離する。それをずっと資本の力でやってきた。先ほどの文明国が野蛮国を指導する義務があるという名目で植民地にするという理屈で。

文明というのは、結局資本力、機械イコール資本だとすると、より火力を持ち生産力を持った国がそうでない国を支配していく。そして、最後は金融で支配することになる。大英帝国の時代までは生産力と火力による植民地支配でしたが、20世紀、とくに第2次世界大戦後は、IMFを使って、債権国と債務国に分けて、それで借金漬けにするという金融支配の構図に変わりました。

ニクソン・ショック──「近代の終焉」の契機

木村:私は経済の専門家ではありませんが、今日の制御が効かないグローバル資本主義に行き着く曲がり角は、やはり1971年のニクソン・ショックだったのだろうと思います。その背景には、ベトナム戦争による軍事費拡大によるアメリカ経済の破綻がありました。ニクソン・ショック以降は、金とドルとの交換停止で、金に裏打ちされない「ペーパーマネー化」が進んでいくわけですね。

その2年後には、オイルショックが起きて、産油国のだぶついたオイルマネーを元手に先進諸国の銀行が新興国にじゃぶじゃぶと貸し付けて、新興国は債務不履行(デフォルト)に陥っていく。世界が「カジノ資本主義」に狂奔する原型は、1971年から1973年にかけてはっきりと姿を見せていたと言えます。

水野:そのとおりだと思います。ニクソン・ショックから金融自由化が始まりグローバリゼーションにつながっていきます。それをいま中国の習近平がまねして。中国は途上国に対して、必要以上に貸し付けて融資漬けにする。そして、返せなくなるようにして、現物の資源で返してくださいということをしています。

金とドルの交換停止は、近代社会の中心概念である貨幣価値を動かしたことだと思います。どんなシステムも中心を動かすと、その社会は崩壊に向かいます。コペルニクスが不動の神を動かしたことで、キリスト教が支配する中世社会は崩壊に向かいました。1971年のニクソン・ショックはコペルニクスの宇宙論に匹敵する大事件だったと言えます。

木村:私はグローバリゼーションの1つの特質は、「脱領域」だと思っています。GAFAを中心とした巨大IT企業は、自分たちの支配領域をもたない、バーチャルな世界で比類のない「帝国」を作っている。国民国家をつくりだした17世紀のウェストファリア体制のもとでは想像もできなかった「版図なき支配」です。

水野:そうですね。グローバリゼーションは国境を明確にする国民国家体制とは非常に相性が悪い。これまで、古代文明、中世文明、近代文明などいくつかの文明があって、中世の文明は城壁で囲まれた、城壁都市の中が文明世界だった。それで近代になると国民国家単位になり、城壁から国境線に置き換わっていく。しかし、現代のグローバリゼーションというのは国境線がありません。ですから、現代のグローバリゼーションというのは近代の代物でもない。むしろ、グローバリゼーションとは「第2の中世」を招来させているのではと思います。

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