第2に、不完全な情報のもとでも迅速に政策判断に有益な分析を行える体制の構築である。学術専門家は、厳密性・正確性を重視して、その成果を学術研究として発表して評価される。そのため、感染の動き、政策効果について、学術的専門家に知見を求めても、エビデンスがないので、わからないという答えを出すことがある。
政策判断に有益な分析を迅速に行える体制を平時から維持しておく必要がある。政策側からどのような可能性があるかについて、基本ケースに加えて、楽観ケース、悲観ケースで幅をもたせた形で、シミュレーションを示すことが必要である。その際、短期的、中期的、長期的な動きについての予測が重要である。当然、不正確な情報に基づいての予測であるため、事後的な検証をしていく必要がある(※)。
(※東京大学の仲田・藤井両氏がインターネット上で発表している感染と経済に関するシミュレーション分析は、このような試みである。https://covid19outputjapan.github.io/JP/index.html)
緊急事態において専門家にエビデンスを求める際には、学術的厳密性だけを追求しすぎないこと、責任は政策を採択した政府にあることを明確にしておくことが重要である。
危機ではエビデンスが出るのを待っていられない時も
EBPMについては「厳密なエビデンスがない政策をすべきではない」という間違った解釈がされることがある。新しい政策であれば、当然エビデンスがないものや不十分なものが多い。しかし、エビデンスがないから政策をすべきではない、ということにはならない。特に危機時には、エビデンスが出るのを待っている時間に膨大なコストが発生するという時間・イコール・コストの意識を政府が持って政策判断することが重要である。
時間的な余裕がない場合には、政策効果が見込めるというロジックがしっかりしていれば、政策をする価値がある。ロジックの中に、どのような仮定をおいているかを明確にしておけば、どの仮定が間違っていたために政策効果が十分でなかったかがわかる。
日本の新型コロナ対策の特徴は、諸外国のように罰則をともなった規制ではなく、罰則を伴わない努力義務という形をとるものが中心だった。実際、人流の動きは、緊急事態宣言よりも感染者数によって引き起こされていたことを示した研究もある。(「日本の自発的ロックダウンに関する考察」2020年8月、渡辺努・藪友良および内閣府『令和3年度経済財政白書』。また、「『東京での感染減少の要因:定量分析』遠藤宏哲・別府正太郎・藤井大輔・川脇颯太・眞智恒平・前田湧太・仲田泰祐・西山知樹・岡本亘 2021年10月25日)」 は、第5波の感染者数減少は医療逼迫の報道により、人々が感染リスクの高い行動を控えたことによって引き起こされた可能性をも指摘している)
規制と罰金あるいは補助金という組み合わせが、政策の基本であることは間違いない。しかし、その政策や情報をどのように伝えるかによって、政策効果が大きく異なってくることが、今回の新型コロナ対策でより明確に示された。
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