コロナ対策「証拠に基づく政策形成」の重要な論点 感染リスクに限らず広範な危機意識共有が不可欠

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(2)優先順位が決まっていない場合は専門家には政策のオプションを提示させるべき   

事前に政策の優先順位が決まっていない場合には、専門家はトレードオフを明記した複数の政策オプションを示すべきである。

例えば、第6波に対する政策を議論している「第6波におけるコロナ対策の指針」(2022年1月、大竹文雄・小林慶一郎・仲田泰祐)は、その時までに得られているエビデンスをもとに、

A: 緊急事態宣言などの行動制限による感染抑制
B:「医療逼迫に伴う人々の自主的な行動変容・人々の価値判断」による感染抑制
C: (従来の感染症法の枠組みの中で)一時的なコロナ医療体制の変更

という3つの政策オプションについて、メリットとデメリットを提示している。

オプションには、それぞれメリットとデメリットがあり、どのオプションを選ぶかは価値観に依存する。専門家の役割は、専門的知識に基づいて選択肢を提示することであり、そのオプションからどの政策を選ぶかは、国民の代表である政治家がすべきことである。政策決定が価値観を伴った意思決定であることから、専門家はその知見に基づいて提出した判断についての説明責任を負うが、政策の結果責任を負わない。

専門家では1つの意見に集約できない

コロナ対策分科会の提言は、1つのものが出され、それを国が採択するかどうか、というプロセスになっていた。これは、優先順位が事前に決められている段階では適切である。しかし、感染対策を重視した場合と社会経済を重視した場合で、異なる分野に影響が出ることについて、専門家では1つの意見に集約することはそもそもできない。

例えば、第6波でどのような出口戦略をとるべきかを判断するのは、オプションを提示する専門家ではなく政府である。感染力は高いが軽症者の比率が高いというオミクロン株の特性に応じた対策については、医療提供体制や保健所の対応の大きな変更も含めて、政府が決断すべきである。

トレードオフには、現在世代内でのトレードオフと将来世代と現在世代のトレードオフがある。新型コロナ感染症は、高齢者が感染した場合の健康リスクが非常に高く死亡率も高いという特徴があるため、行動規制による便益は現在の高齢者に集中する。

一方、行動規制による感染対策のコストはもともと重症リスクが低い子供、あるいは若年層にとって大きい。彼らは感染対策による便益よりも大きな費用を負担している。これは現在世代内でのトレードオフである。一方、行動規制によって結婚数や出生数なども低下するため、将来世代の命を減らすという意味で、将来世代に費用を負担させている。これは、現在世代と将来代の間のトレードオフになる。

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