コロナ対策「証拠に基づく政策形成」の重要な論点 感染リスクに限らず広範な危機意識共有が不可欠

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新型コロナ対策では、感染対策の負担が集中している一部の事業者や家計にターゲットを絞った支援の予算額が大きい。しかし、制度の谷間に落ちる困窮者も存在するため、この方式では不充分である。普遍的な補助金と税制を通じた一般的な所得再分配制度を活用していく必要がある。

(第6波でまん延防止措置の発令を自治体が望む原因の1つは、協力金の支給が可能になるという側面があると考えられる。これは、飲食店への協力金のように、営業時間規制・休業規制を遵守してもらうためのインセンティブとして支給されているものが、所得減少に伴う所得保障という側面と混乱していることから発生している可能性がある。

人々が感染リスクを恐れて行動変容した結果、飲食店の利用が減り、観光客が減ったのであれば、政府が何も行動規制を行わなくてもその分野の人々の所得が低下した。しかし、政策効果がそれほど大きくなくても、政策発動した場合にだけ協力金を支払うということになると、非常に狭い業者を対象にした所得再分配政策になっている。

所得再分配政策に徹する方法もある。特別定額給付金を課税対象にすれば、ベーシックインカムや負の所得税と似た形で再分配機能をもたせることができた。あるいは貸付金を主体にし、所得減少を税情報で確認したうえで、大きく所得が減少した場合に、返済不要あるいは一部免除にするという制度を作って対応すべきだと考える)

偏った意思決定をしていないかに特に注意

新型コロナ感染症対策関連の予算および政策は、EBPMを有効に活用すべきことが多い。不確実性が高く、新しい政策でその効果がはっきりしないものも含めて迅速に政策対応をする必要がある。その際、因果関係が明確になったうえで行う政策とそれが不明確なまま行う政策、複数の政策目標がある政策なのかそうでないのか、リアルタイムの政策分析に適した分析か、情報効果を考慮しているか、政策の見直しを取り入れているか、という観点に注意するべきである。

中でも、複数の政策目標がある場合、計測しやすく目立ちやすい情報に偏った意思決定をしていないかに特に注意すべきである。感染リスクに関する危機意識の共有だけではなく、コロナ禍での経済・文化・教育・健康に関する危機意識の共有も重要である。

そのためには、平時から社会経済的な課題についてデータ・エビデンスでしっかり把握し、平時および危機時の両方に有効な政策的対応を進めるべきである。特に、危機時には、エビデンスを待つ時間に膨大なコストが発生すること(時間=コスト)を意識した政策判断が必要である。

大竹 文雄 大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授

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おおたけ ふみお / Fumio Otake

1961年京都府生まれ。1983年京都大学経済学部卒業、1985年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年大阪大学経済学部助手、同社会経済研究所教授などを経て、2018年より大阪大学大学院経済学研究科教授。博士(経済学)。専門は労働経済学、行動経済学。2005年日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞、2006年エコノミスト賞(『日本の不平等』日本経済新聞社)、日本経済学会・石川賞、2008年日本学士院賞受賞。著書に『経済学的思考のセンス』『競争と公平感』『競争社会の歩き方』(いずれも中公新書)など。

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