(3)客観指標が得られやすい分野と得られにくい分野があることに注意すべき
新規感染者数、死者数など、感染に関する情報は、毎日、報道され、人々の関心を集めやすい。そのため、政治的にも重視される。一方、社会や経済に感染対策が与えるリスクは、毎日数字として表れるわけではなく、感染対策の影響かどうかも判断しにくいものが多い。
子供、若者の自殺が増え、婚姻数も減少
例えば、コロナ対策が強化された時期には、特に子供、若者の自殺が増えたことが明らかにされている。コロナ危機による自殺は約4900人であり、失業率上昇で説明できる部分は約4分の1しかないことを示した研究がある(『コロナ禍における子供の超過自殺』2022年2月6日、OUENTIN BATISTA(シカゴ大学)・藤井大輔・仲田泰祐(東京大学)。緊急事態宣言で既婚女性の就業率が低下し、DVが増えた(内閣府男女共同参画局(2021)「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会報告書」)。
学校休校は、子供の学力、非認知能力、健康にマイナスの影響を与え、特に、恵まれない家庭の子供たちへの影響が大きかった(“What the COVID-19 school closure left in its wake: Evidence from a regression discontinuity analysis in Japan,” Journal of Public Economics, Volume 195, 104-364,Reo Takaku, Izumi Yokoyama、2021)。
婚姻数は約11万件も減ったため、将来婚姻数の埋め合わせがなければ失われた出生数は約21万人と予測されている(「コロナ禍における婚姻」「コロナ禍における出生」いずれも2022年2月8日、千葉安佐子(東京財団)・仲田泰祐(東京大学))。水際対策で、海外からの留学生が激減し、国際的なビジネス交流が減り、日本人の国際交流が減ったことは、長期的に日本社会に大きな影響を与える可能性が高い。しかし、これらの指標は、感染者数のように毎日報道されるわけではなく、因果関係を特定することも容易ではない。
したがって、政策担当者は、これらの指標が政策判断で過小に評価されないように注意すべきである。そのためにも、平時からこれらの分野のデータの蓄積を進め、危機対応できるような研究を蓄積しておくことが重要である。
日々刻々と変わる感染状況に応じて対策を迅速に変えていく必要がある。そのためには、2点が重要である。
第1に、リアルタイムデータを整備し、活用できるようにすることである。日々の行政から得られる行政データ、携帯電話の位置情報から得られる人流データ、クレジットカードの利用情報、POSデータ、SNSデータなどのデータを個人情報保護のうえで、分析し活用する仕組みを整備すべきである。
特に、感染情報についてはリアルタイムで得られるはずのものが、政府のデジタル化が遅れていたこと、個人情報保護の問題があったことから、分析が進まなかったという事実がある。政府のデジタル化を推し進め、平時からリアルタイムデータを用いてタイムリーに状況を把握できるようにするべきである。これにより、政策効果をモニタリングし、効果検証を行い、エビデンスを蓄積することも可能になる。
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