福井信英
リクルートが7つの約束を宣言した。素晴らしい内容ではあるが、採用業界に携わるものには少なからず衝撃をもって受け入れられたようだ。
いろいろな反応が見受けられるが、批判的な意見の根底にあるのは、「リクルートよ、お前が言うな!」という感覚的な反発。言い換えると「リクルートよ、お前に本当にそれができるのか?」というものだろう。
リクルートは言うまでもなく、日本の採用業界をリードしてきた会社で、高度経済成長期という時代の変化を先取りし、日本特有の新卒採用市場を生み出し、標準化し、育ててきた張本人だ。
しかし、この宣言は、リクルートがこれまで作ってきた制度やルールを否定するものでもある。
たとえば、約束の4は「就職活動にかかる学生の負担を軽減します。」というものだ。
「膨大な数のエントリーシートの作成、説明会・就職イベントへの度重なる参加など、現在の就職活動システムは学生に時間的・金銭的・心理的負担を強いている」とあるが、この現在の就職活動システムを作ってきたのはリクルート自身ではなかったか。
「企業が求める良い人材を採用するには、学生をたくさん集める(そして、たくさん落とす)必要があると説き、エントリーシートという概念を一般化し、各社共通の就職試験を開発し(そして今はその対策本が世にあふれ、大学内でも対策講座が多数設けられている)、数多くの説明会・就職イベントを作ってきたのはリクルートではなかったか。
リクナビは確かに企業の情報を探し、企業への志望を表明するのに便利なツールになったが、いつしか必要以上のエントリーを生み出し、学生が片時も携帯電話を手放すことができないようにしてしまった。
こういった自分自身がつくってきたシステムを否定せざるをえないところが、「お前が言うな!」「お前に本当にそれができるのか?」という懸念の原因となっているわけだが、リクルートのDNAは、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という創業者の江副浩正氏の言葉に現れている。リクルート自身が新しい時代に向けて、過去と決別し、新しい時代を切り開く宣言ととらえれば「7つの約束」はわかりやすい。
私は、リクルートは本気で日本の新卒採用のルールを作り変えていこうとしているのではないかと思う。
日本が直面している長期的な経済力の低下と、少子化時代・教育機関の対応の遅れから生じた人材レベルの低下が、これまでリクルートが作ってきた採用活動のやり方に強く見直しを要求しているのだ。
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