「難しすぎる」共通テスト数学が抱える根深い問題 基礎的な試験というより「処理能力を測る試験」
「大学入学共通テスト」の数学1・数学Aの平均点(中間集計)が、昨年と比べて20点ほど低く、約38点であったことが注目されている。難しい試験を行えば結果が悪くなることは当然であるが、問題量の多い試験を短時間で行うことは、一般的には処理能力を測ることが目的のように思われるかもしれない。
実際、大学の数学教員でも、今年の数学1・Aと同じ試験にチャレンジすると、「あと10分延長してもらえばなんとか満点」という人は少なからずいると思う。本稿では「大学入試の数学」という視点からこの問題を歴史的に考えてみたい。
「大学入学共通テスト」が誕生するまで
1979年に開始された「共通一次試験」は「基礎学力試験」で、奇問や難問を排して「受験地獄の解消」が主たる目的であった。結果は、受験地獄は解消されるどころか、国公立大学の受験生にとっては、2次試験前に全問マークシート形式の試験が課されることとなった。
共通一次試験は1990年から、私立大学も参加できるようにした全問マークシート形式の「大学入試センター試験」に移行した。目的は、「高等学校における基礎的な学習の達成度を判定する」ことである。
2004年5月30日の朝日新聞では、注目すべき東北大学の調査結果が紹介された。1次のセンター試験の数学と、2次の理学部入試における記述式の数学試験の成績に関して、相関が極めて弱かった。そして、当初から参加した慶応義塾大学が「センター試験利用入試」を廃止した2012年頃から、現在の「大学入学共通テスト」への移行が検討され始めたようだ。
筆者は1985年4月から2007年3月まで理学部数学科の教員として勤務し、その間に入試数学責任者も含む入試数学の仕事に使命感をもって取り組んできた。懐かしい思い出として、入試が近くなった頃、作成した入試問題の文中で「各々」とあるべきところが「名々」となっていることを夢の中で思い出し、その修正のために問題用紙を全部印刷し直してもらったこともあったほど、全神経を集中して取り組んできた。
毎年のように入試が終わると同時に、膨大な答案を採点してきたが、その間に奇妙な答案を目にする機会が年々増えてきたもどかしい思い出が残る。それは、文字を使って一般論として解くべき答案に、0とか1などの具体的な数値を文字に代入して、答えを「当てる」試みだけをする答案である。すぐに気付いたことであるが、もし当問題がマークシート形式ならば正解となった可能性が高い問題でもあった。
それをきっかけに筆者は「マークシート問題の裏技」を研究し(一部は読売新聞2003年5月30日付の一面記事で紹介)、さらには日本の青少年の論述力が弱いことが、国際比較や国内調査結果で明らかになったことを受け、各種メディアで、マークシート形式の問題点と記述式の意義を訴える活動を展開してきた。
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