岸田政権が掲げる「新時代リアリズム外交」の意味 バランス感覚や有利な立ち位置の確保が不可欠

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的確にパワーの分布を見抜き、自らの有利なバランスを確立する政治姿勢が岸田流だ(写真:Yoshikazu Tsuno/Gamma-Rapho/Bloomberg)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

「新時代リアリズム外交」とは何か

2022年1月1日、岸田文雄首相は自らの政策の基本方針を示す年頭所感のなかで、「普遍的価値の重視、地球規模課題の解決に向けた取り組み、国民の命と暮らしを断固として守り抜く取り組みを三本柱とした『新時代リアリズム外交』を推し進めます」と述べている。岸田首相は、徐々に自らの政権における外交政策の輪郭を描きはじめた。

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この「新時代リアリズム外交」という言葉は、その1週間ほど前の12月22日の岸田首相の演説の中で、はじめて体系的に用いられた言葉である。岸田首相はそこで、「私自身、政治家として育ってきた宏池会(こうちかい)という政策集団は、昔から、リアリズムの外交、こういったものを掲げてきました」と論じた。

しばしば自民党内でリベラルな政策集団と見られる宏池会のイメージを、それとは対照的な「リアリズム」という用語で再定義しているのは興味深い。岸田首相は、自らがリベラルな政治家としてみられることをあまり好まないと報じられることもある。それゆえに、自らの外交姿勢を示す言葉に「リアリズム」というラベルをつけることによって、自民党内の保守系議員からの批判を回避したいという意図が垣間見られる。

それでは、「新時代リアリズム外交」とは具体的にどのような方針を意味するのか。また、「宏池会」首班の内閣で従来の外交路線とはどのような違いが見られることになるのだろうか。さらには、それを支える自民党内の政治力学にどのような変化が見られるのであろうか。岸田外交を、そのような自民党内の政治力学や、自民党政治の戦後史の中に位置づけることで、より深く理解できるのではないか。

マキャヴェリ主義者としての岸田文雄?

岸田文雄首相は、自民党内でのリベラル派の政策集団と見られてきた宏池会の伝統のなかで、リベラルな政策を推進すると想定されることがある。だが、実際には岸田首相は自らをリアリストとして認知されることを求めているようであり、自民党総裁選で勝利を収めた際にはマキャヴェリ主義者としての顔も示していた。それはどういうことであろうか。

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