岸田政権が掲げる「新時代リアリズム外交」の意味 バランス感覚や有利な立ち位置の確保が不可欠

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同時に日本オリンピック委員会会長の山下泰裕氏や、東京大会組織委員会会長の橋本聖子参議院議員を派遣する構想を示すことで、米中対立の狭間で難しい判断が迫れるなかで、昨年の東京夏季五輪への協力姿勢を示してくれた中国への一定の配慮を示した。

「2022年」は、1972年の日中国交正常化の50周年となる。日中国交正常化50年という節目の年のスタートに、日中関係が最悪になる事態を回避することができたと同時に、自らが掲げる人権外交を実践しアメリカと価値を共有する姿勢を示した。中国の軍事的脅威が高まる中で、アメリカとの外務・防衛2+2の会合を行い、これから日米両国でそれぞれ新しい国家安全保障戦略を策定するうえで、人権や民主主義という基本的価値を両国間で共有するという目標を維持することは、重要なことである。

軍備増強のみに偏重することや、外交的に敵対関係を増やすことは、必ずしもリアリズムとはいえない。日本の国益に資するようなバランス感覚や、合理的な判断によって自らの有利な国際的な位置を確保することが、外交的リアリズムである。日米同盟を強化すると同時に、日中関係を安定的に管理することが安倍政権における外交的リアリズムだとすれば、岸田政権でそのような基本路線を継承していることは適切な政策判断だ。

参院選の勝利が長期政権への絶対条件

しかしながら、2022年はよりいっそう困難な課題が続くであろう。バイデン政権のアメリカでは今年は中間選挙が控えており、よりいっそう内向きな外交を示すかもしれない。また、日中関係改善に動こうとする公明党との良好な関係を維持しながら、北京五輪後の中国が台湾問題をめぐりよりいっそう強硬姿勢を示すことで緊張が高まるかもしれない。

内政面でも、国民民主党との提携で維新の会への支持が拡大するなかで、岸田政権は今年行われる参議院議員選挙で勝利することが長期政権への絶対条件となる。岸田政権が長期政権へと進んで行く道は平坦ではない。だからこそ岸田政権は、保守主義的なイデオロギーと外交的リアリズムを結合させた安倍長期政権の統治術から多くを学ばねばなるまい。

(細谷雄一/アジア・パシフィック・イニシアティブ研究主幹、慶應義塾大学法学部教授、ケンブリッジ大学ダウニング・カレッジ訪問研究員)

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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