岸田政権が掲げる「新時代リアリズム外交」の意味 バランス感覚や有利な立ち位置の確保が不可欠

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戦後の政治史の中では、自民党では歴史的に3つの主流派の派閥が重要な位置を占めてきたといえる。党内での中道派の平成研究会(現在の茂木派)と、保守派の清和政策研究会(現在の安倍派)、そしてリベラル派の宏池会(現在の岸田派)である。最近では派閥の影響力が後退し、また必ずしも歴史的にも自民党の派閥がつねに単一の理念や政策構想で結束していたわけではない。とはいえ、この主要な3つの派閥の合従連衡や対立関係がしばしば、自民党政治を動かすダイナミズムとなっていた。

現在では安倍派である清和会が最大勢力であり、岸田政権は安定的な党内政治基盤を維持するために安倍派、とりわけ安倍晋三・元首相の支持が不可欠である。それゆえに自民党内の権力基盤の維持、そして自民党支持層の有権者からの好意的な評価を持続させるためにも、岸田政権は自らの軸足を中道よりも右に置かなければならないという現実がある。

事実、2012年12月に成立した第2次安倍政権の外交を岸田氏は外相として支えてきており、安倍外交のリアリズムは部分的に岸田外相の成果でもある。同じ年に初当選した同期である岸田氏と安倍氏は長年盟友関係にあって、相互に深く信頼してきた。安倍外交のリアリズムは、それゆえ、安倍首相と岸田外相の協力の帰結ともいえる。

「自由で開かれたインド太平洋」構想を継続

岸田政権が、安倍外交におけるリアリズムの伝統をかなりの程度において継承していることは、それゆえ自然なことである。実際に、自らがその成立と普及に貢献した「自由で開かれたインド太平洋」構想を、岸田首相は自らの政権においても継続している。

安倍外交のリアリズムの基本路線を岸田首相が継承していくことに加えて、岸田氏自らが党内政治においてもマキャヴェリ的ともいえるようなリアリズムを実践していることにも留意するべきだ。岸田首相は、2020年9月の自民党総裁選で菅義偉氏に敗れてから、それまでの妥協的で調和的な政治スタイルを修正して、政策においても政局においても、よりいっそうマキャヴェリズムを強め、状況に応じて迅速に重要な決断を行っている。

そうでなければ、圧倒的な世論の支持を受けて、さらに国民的な人気を誇る小泉進次郎環境大臣、石破茂元幹事長が支える河野太郎氏、党内の保守派から強い支持を受けていた高市早苗氏に対して、次期首相候補としての評価がそれほど高くはなかった岸田氏が総裁選で勝利を収めることはできなかったはずだ。

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