日本の経済安全保障「防衛産業」の議論が欠ける訳 新興分野と一体で強い安全保障生産・技術基盤を

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このままでは日本の防衛産業がますますガラパゴス化してしまう(写真:トシチャン/PIXTA)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

産官学の共同が不可欠

国家安全保障と経済安全保障は並置されるものではなく大きく重なり合う。防衛産業はその重なりの中で最も重要だ。にもかかわらず、経済安全保障に関する取り組みから防衛産業は抜け落ちている。経済安全保障法制に関する有識者会議の産官学を代表する18名のメンバーにも防衛軍事の専門家は見当たらない。

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産経新聞の報道(「防衛版」経済安保法検討 産業基盤を強化、2021年12月10日配信)によれば、防衛部局は「防衛版」経済安全保障法案の策定を検討中とのことだが、これではますます防衛産業が他産業から切り離され、ガラパゴス化してしまう。今後の安全保障・軍事のあり方を左右する革新的技術は軍民両用であり、その大半が防衛事業とは無関係の民間企業で研究開発されている。

中国の軍民融合に対抗するには、産官学の共同が不可欠だ。機微技術の管理にも軍事的な専門知識が必要である。高い秘密保全等の特殊性は防衛産業だけを特別扱いする理由にはならない。軍事と非軍事の境界が意味を失いつつある現実を踏まえ、安全保障生産・技術基盤を育成・保全・活用する経済安全保障を目指す必要がある。

防衛産業の衰退に関する危機意識は早くから防衛関係者には共有されてきた。防衛装備品の高性能化にともなう調達単価や維持・整備経費の増加と調達数量の減少、研究開発コストの上昇に追随できない防衛関係の研究開発予算、技能の維持・伝承の困難化や一部企業の防衛事業からの撤退などの逆風の中、新たな防衛装備移転三原則(以下、三原則)に期待し、2014年(平成26年)6月に「防衛生産・技術基盤戦略」が策定された。

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