日本の経済安全保障「防衛産業」の議論が欠ける訳 新興分野と一体で強い安全保障生産・技術基盤を

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前年に初めて策定された国家安全保障戦略と改定された防衛計画の大綱を受け、防衛省・装備庁が打ち出した起死回生の策だった。結果、安全保障技術研究推進制度の導入やフィリピンへの警戒管制レーダー輸出(2020年)などの成果が上がったものの、同戦略が意図した防衛産業の活性化には程遠いのが現状だ。

防衛省はこれまで、同戦略や累次の防衛大綱に基づき、企業間の競争環境の創出に向けた契約制度の見直しや三原則のもとでの装備品の海外移転の推進に取り組んできた。産業界との協力・連携を推進するため、防衛大臣と日本経済団体連合会幹部との間で意見交換するなど、企業との対話も実施した。しかし、防衛事業から撤退する企業は後を絶たず、海外移転の実績も乏しい。

防衛省だけの取り組みはすでに限界

防衛産業は「土俵際」に追い込まれていると指摘されており、防衛省だけの取り組みはすでに限界だと言わざるをえない。一例を挙げれば、防衛装備品の海外輸出手続きがある。国内の約1万の防衛関連企業は、自衛隊だけの極めて限定された需要から海外市場への進出を必要としている。

価格や品質・性能で競争力のある企業もある。A社の落下傘は安全性や操作性に優れ、数年前からB国軍への輸出に向けて企業努力したが、三原則の運用指針が海外移転を認める「救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する防衛装備」に落下傘は該当しないとされた。装備移転の主管は安全保障貿易管理全般を所掌する経済産業省であり、A社担当者は経産省と防衛装備庁に何度も調整したあげく、国家安全保障会議での審議が必要と言われ、その負担の重さに断念したと聞く。

そもそも三原則は防衛装備品の海外移転を禁止することが目的であり、海外輸出促進が目的ではない。経済産業省は防衛装備の輸出規制と防衛産業の維持強化の両立を考える必要がある。工廠を持たない自衛隊は、防衛産業なしにはいかなる任務も遂行しえない。防衛産業の衰退は自衛隊の弱体化と同義である。

現在の日本の安全保障体制は、2013年の国家安全保障会議(NSC)設置、国家安全保障戦略の策定、2014年の国家安全保障局の発足で整った。しかし、安保会議の諮問事項で唯一、これまで一度も審議されていない事項がある。

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