リックたちが言うところのウォーカーの始まりは、何らかのウイルスに感染したものと思われるが、原因は不明だ。ある日突然、気づいたらこうなっていたという状況設定は、かつてのエイズやエボラ出血熱など、人類につねにつきまとうパンデミックの恐怖と重なる。
近年の映画などでは高速で走ったり機敏に動くゾンビも描かれて、マニアには賛否両論だったりするが(筆者はマニアではない)、本作のウォーカーは基本的にもったりした動きでステレオタイプと言えるだろうか。知能は有しておらず、人間の生肉を食すために襲う行動は本能的なもので、銃で撃たれたり、体の一部がなくなったりしても動き続けることができる。
ゾンビの“半生感”がリアルなワケ
活動を止めることができるのは、脳幹にダメージを与えることでのみ(ゾンビもので脳を破壊することは、お約束だ)。そのため、劇中では斧でぶったぎる、刃物や鋭い棒などで刺す、銃弾を撃ち込むなどでウォーカーを撃退する。
さすがに、これらのシーンやウォーカーの造形は気味が悪く、“半生感”がリアルで、グロテスクな部分は当然あるが、悪趣味にすぎるという感じではない。
ひとつには、グラフィック・ノベルを思わせる抑えたトーンの色調と、渇いたタッチの映像世界に負うところが大きい。あえて16ミリフィルム(VFX使用シーンは35ミリ)にこだわり撮影された映像は、ざらついた感じがどこかレトロ調かつシャープで洗練されている。
ちなみに、ゾンビの特殊メイクや死体がリアルなのは、実は『ER緊急救命室』や『CSI:科学捜査班』で医学的に正確な死体や傷口、損傷や腐敗などの表現が必要とされたことで、技術的な質が底上げされたというのが面白い(出典「TV Horror: Investigating the Dark Side of the Small Screen」より)。
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