日本の円は高すぎない 今までが安すぎただけ--リチャード・カッツ
菅政権は円高を攻撃する以外に景気回復を促す政策をまったく持っていないように見える。菅首相は、「新成長戦略」の中で、輸出にこの10年よりもさらに大きな役割を求める一方、現在のような円高では海外に太刀打ちできないと嘆いている。民主党代表選挙で争った小沢一郎氏は、大規模な為替介入の必要性を訴えている。
だが、円は本当に強いのだろうか。名目値ではそう見える。本稿執筆時点で、円相場は1ドル=84円である。9月初めの時点で日本のすべての貿易相手国を対象にした円相場の名目指数は、過去最高の137を記録している(1986年後の平均相場を100とする)。
日本の輸出競争力を判断するためには、日本がデフレであったことを考慮する必要がある。名目円相場が10%上昇しても、デフレで日本の輸出企業のコストが10%下落したのであれば、競争力に及ぼす影響は変わらない。円相場が変化していないのと同じである。
日本銀行の統計によれば、物価調整後の円の実質価値は、過去25年間の平均と同じだ(86年から2010年の実質相場の平均を100とすると、9月初めの指数は100・2)。円相場が1ドル=86円だった7月の時点で見ると、日本の輸出企業の円ベースのコストは大幅に低下している。そのため日本の輸出企業は、世界市場における製品のドル価格を、米国の競争相手よりも10%低く設定することができたのだ。
日本の輸出企業と菅政権が本当に文句を言うべきは、「円が強くなったこと」ではなく、「これまでの異常な円安が終わったこと」なのである。02年以降の景気回復期に、円の実質的な価値は着実に弱まった。07年までに86年後の平均を30%下回り、70年代後半から80年代初めの水準にまで落ち込んでいた。超円安が輸出増大を促し、景気回復をもたらしたのである。