日本の円は高すぎない 今までが安すぎただけ--リチャード・カッツ
しかし、円安にもかかわらず、日本企業の世界シェアは下落し続けた。中国の影響を除いたOECD加盟国の輸出だけを見ると、日本の製品輸出のシェアは86年の13・5%をピークに一貫して低下し、07年には8・4%にまで落ちている。
経済産業省が4月に発表した「日本の産業を巡る現状と課題」によると、95年から06年の間に日本企業のDVDプレーヤーの世界シェアは95%から20%へ急落。液晶パネルは100%から20%、カーナビは100%から20%、DRAMメモリは40%から10%以下に下落している。こうした製品の一部は、現在では海外の工場で生産されている。問題は単に円の価値だけでなく、日本企業の経営にもあるのだ。
円高を気にするより成長戦略に集中せよ
輸出を増やすために安い通貨を必要としているが、それでもシェアを失い続けている国は、競争力を喪失しているのである。それは、多くの企業が高品質の製品に価格プレミアムを付けられなくなっていることを意味する。ソニーというブランドだけでは、もう消費者を魅了することはできないのだ。
円安は輸出企業に恩恵をもたらすかもしれないが、国全体にコストを課すことになる。円安は輸入価格を高くし、消費者の購買力を損なう。円安は、生活水準を犠牲にして雇用を創出するものである。これが、民主党議員の一部が、日本は家計部門の実質可処分所得を増やすために円高を促進すべきだと主張している一つの理由だ。だが、その立場は菅首相によって覆された。
02年から07年の景気回復期に、GDPの成長の3分の2は貿易黒字の拡大によってもたらされた。残りの3分の1は企業の設備投資の増加によるもので、その大半は直接あるいは間接に輸出増に支えられていた。そのため、世界が不況に陥ったとき、日本の輸出量は半減し、日本は先進国で最も深刻なリセッションに陥ったのだ。