大室:僕はその人の自宅近くのファミレスとかまで出向いて、奥さんも交えて話をすることがあります。奥さんも旦那の会社のことはよくわからないので、「ずっと休んだらクビになるんじゃないか」とか、変なことに怯えていたり、簡単に異動できると思って旦那にハッパをかけたりする。いまは大企業でもカンパニー制なので、異動できる所は限られてるんですけどね。だから休職中は夫婦ゲンカがすごい。
塩野:それ、ありますね。会社で不祥事が起きて捜査当局の取り調べなんか受けちゃうと、まず最初に家族が病んで、そのフィードバックで本人も病むパターンをよく見ます。
大室:僕はそういうとき、半分は第三者的な感じでアドバイスするんですよ。産業医は法的にも会社従業員双方に中立であると明記されているように、こう言ったら冷たいようですけど、産業医というのは別にその方がどうなろうとも、給料が変わるわけではない。だから上司や人事とは違った立場です。そのちょっとラインからは外れた第三者的見解で今までこの会社で休職した人を100人見てきた中で言うと、これからどうなるかは予想がつく。本当に会社が合わないのであれば、退職するのも一つの選択肢。辞める場合、異動する場合、復職する場合、Aプラン、Bプラン、Cプラン全部デメリットありますよ、と説明します。その上で、じゃあ、どうしようかと一緒に考えていきます。
だから産業医のカウンセリングは、精神科のそれとも違う。精神科のカウンセリングは患者を100%受容して、とことん話を聞いて本人が自分で正解を見つけるのを促す。でも産業医としては、休職期限がもう再来月に迫っているというときに、「そうですか、そうですか」と相づちだけ打っているわけにはいかない。結果的にコンサルティング的な隠し味が効いてくるんですよね。僕の仮説だけど、塩野さんのようなコンサルタントは、逆に2割ぐらいカウンセリング的な隠し味が効いてるんじゃないですか?
医者としてのリスクを取るのが産業医
塩野:おっしゃる通りです。情と理でいうと、情の部分がわりと効きますね。ロジックだけでは、ただの少年少女分析官なので。
大室:そうですよね。たとえば足をケガした柔道選手が、オリンピックに出たいと言っているとしますよね。その選手が町の整形外科に駆け込んだら、医者としては「出場停止」って正論を言うしかない。でもその人をずっと診ているスポーツドクターなら、「そこまで言うんだったら、麻酔打つけど出る?」というように、ちょっと踏み込んで、医者としてのリスクを取るのが産業医なんじゃないかなって気がしますね。
塩野:大室先生の日常はテレビドラマになりそうですね。
大室:僕、暴露本が書けるかもしれない(笑)。
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