「産業医」というニッチな商売
塩野:今日は医師の大室先生に来ていただきました。大室先生は産業医ですが、産業医というのは、具体的にはどういうお仕事でしょうか。会社勤めの人から健康相談を受けるお医者さん、というイメージですが。
大室:簡単に言うと、労働者が健康に働けるよう、指導や助言をする医師のことです。医師が産業医の資格を取れば、すぐ産業医と名乗れます。今だいたい医師の3分の1は産業医の免許を持っていますが、ほとんどはアルバイトで産業医をしてるんですね。普段は大きな病院に勤めていて、月に一度、近所の会社で産業医をやるというように。
産業医だけを専門にやっている医師は全体の10%どころか、数%に満たないと思います。僕はその産業医を専門にするという、かなりニッチな商売を選んだわけです。
塩野:なるほど。どういう経緯で産業医になろうと思ったんですか。
大室:まず高校生のとき医大に入ろうと思って調べてみたら、条件を満たせば学費が免除される医学部が当時3つだけありまして。ひとつは防衛医科大学。自衛隊の医者を育てる大学ですね。もうひとつは地方自治体がお金を出し合ってつくった自治医科大学。卒業後に自分の出身県に戻って無医村や病院の少ないところで働く医者を育てる大学です。
もうひとつが僕の卒業した産業医科大学。水俣病やイタイイタイ病などが問題になっていた頃、産業と健康のかかわりが分かる医者「産業医」を育てるために、旧労働省、今の厚生労働省が国策としてつくった大学です(現在は学費の一部を自己負担)。ただ、産業医科大学を出ても産業医を専門にする人は3割ぐらいなんですよね。卒業したら労災病院や大学病院に勤めるということだけが学費免除の条件なので。
だから大学に入ってからもずっと、産業医になろうかな、それとも他の科に行こうかなと揺れていました。そもそも僕は、医者以外にもなりたいものがたくさんあった。商社マンとか編集者とか。
塩野:編集者! それがまたどうして、お医者さんに?
大室:僕が小学校6年の頃は、広告代理店や雑誌が文化を担っている、みたいなムードがあったので、そういう文化に携わりたかったんですね。でも後日いろいろ調べたら、どうやら大手出版社に入るのはものすごく倍率が高いとわかった。「ああ、俺このオーディション落ちるな」と思いまして。
塩野:オーディション(笑)。
大室:オーディションに落ちるって、ちょっと嫌じゃないですか。でも医学部なら、「何点足りないから落ちた」って、納得がいくでしょう。
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