大室:そうなんですよ。普通の病気であれば、熱がある、咳が出るなどの身体症状と、血液検査の結果などを合わせて病気と診断しますが、心の病気は症状を自己申告に頼らざるを得ず客観的な証明は難しい。だから変な話、これ以上休んだらクビになるという時期になると、今まではずっと「辛い」と言ってた人が、急に「治った」と言ってくることもあります。主治医も半分わかってるんだけど、この人が社会的不利益を被ってしまうと責任が取れないので、「来月から復職可である」と診断書に書くこともあるんですよね。
主治医の診断書は、あくまでも医師法に準じているもので、会社に対して責任を負っていませんから、まあ、書いちゃいますよね。僕も逆の立場だったらそうしてしまうかもしれない。だから、そのへんがなかなか問題ですよね。
あとは「裏を取る」と言ったらあれですけど、上司や人事の方からの情報もかなり大事にしています。
塩野:なるほど、周辺情報ですね。
大室:周辺情報は大事ですよ。僕が本人の承諾を得て主治医のところに行って話すと、「あっ、会社でそんなことになってたんだ。私が聞いていた話と全然違いますね」ということがよくあるんですよ。主治医の診断はあくまでも本人の自己申告に基づいているので。「だったら病名違うよ」となることすらあります。
よく起こり得る「社長が躁病、社員がうつ病」
塩野:中間管理職や、それよりもっと上の役職の人が病んでいる場合もあるわけですよね。
大室:社員を酷使することで有名な、いわゆるブラック企業で有名なところは、自分が言うと語弊があるのですが、よく「社長が躁(そう)病、社員がうつ病」なんて冗談めかして語られることもあります。経営に近いところにいる薄いエリート層だけが、その危機を知ってる。
ベンチャー経営者にも、ハイテンションすぎる人が多いですね。でも、今のところイケイケのベンチャー企業の社長のうつ病は見たことがない。逆に大きな組織でサラリーマン的に偉くなった社長が自殺したという話はよく聞きます。社長になると今までのやり方が全然通用しないし、誰にも相談できないから。会社が社会的に大きな問題を起こしてしまって、心が折れるとか。
常にハイテンションで、「はい、もう少し落ち着きましょう」みたいな社長は言っていることがどんどん変わるから、下の人がついていけなくて、感情を押し殺して生きるようになるんですね。自分はロボットだ、みたいな感じ。そのうち世の中が白黒画面に見えてくる。
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