「報道されない中東の真実」とは何か 国枝昌樹氏、「日本の読者は誘導されるがまま」

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──反体制派同士の潰し合いを当時アサド政権は高みの見物だった?

ええ。ところがイスラム国がイラクのモスルを攻略し、戦闘放棄したイラク軍から戦車・武器・弾薬・軍用車すべて収奪して、またシリアに侵入してきた。破竹の勢いにイスラム国へ外国人がどんどん参入します。今年初め1万5000~2万5000人くらいとみられていた兵力は、2万~3万1500人に拡大したと先日CIAが報告しています。

イスラム国はある意味宗教に対し非常に純粋です。彼らは7世紀、預言者ムハンマドの死後の4代カリフ時代をイスラム国家の理想と考えている。イスラム国はそれを現代に再現するため敵や異教徒を容赦なく殺す。欧米から加わった若者たちは社会に居場所がなく不満を持つ人々なので、イスラム国の青臭い純粋性と強い仲間意識に引き付けられる。

ユーチューブの斬首映像も、7世紀のイスラム法を独自解釈して厳格に実践しているんです。戦国時代なら日本でもあったことですが、彼らは21世紀の現代でそれを実行している。理想のイスラム国家樹立となると、これはもう信念の問題。一般的に戦争とは敵の戦闘能力をそぎ無力化するのが目的ですが、信念の戦いでは敵を殺すことが至上命題。殺して初めて安泰を得るわけです。

しょせんは烏合の衆

──イスラム国の脅威が中東全域に広がる可能性はあるのですか?

私は彼らにそこまでの力はないと思っています。彼らは混乱した現代の鬼子、あだ花です。財力も武器弾薬も豊富、戦闘員には多額の報酬などといわれていますね。サダム・フセイン時代の旧バース党生き残りが合流しているから行政、軍事、装備力も強力とかいうけれど、しょせん彼らは烏合の衆です。モスルの銀行から奪ったカネがある、原油の密売でも資金を得ているといっても、パイプラインで輸出するわけじゃなし、ドラム缶で売りさばくだけのこと。そもそも彼らにとってカネなど意味はない。食糧確保こそが彼らの生命線なのです。

米国は空爆で彼らの前進を今のところ止めている。イスラム国にいる米国人約100人が帰国後テロを起こす危険性を想定すると、イスラム国殲滅は米国の治安維持に直接関係があるのです。一方、シリアの本音はイスラム国を米国が潰してくれるなら好都合なわけですね。アサド政権はヌスラ戦線とその他反体制派への攻撃に集中できるわけですから。

──シリア情勢が中東アラブ世界の地殻変動を招くと見る理由は。

絶対王政を敷く中東湾岸諸国がシリア攻撃に参加している。たとえばカタールは資金や軍を出してきたけれど、国民はそれを絶大な国富を握る国王の火遊びと見ていやしないか。シリアの反体制派支援を民主主義のため、自由のためと唱えれば唱えるほど、自分たちカタール国民には自由もなければ民主主義もないじゃないか、と疑問が出てくるわけです。

アラブの春は、湾岸諸国には飛び火しなかったかのように見えましたが、実は湾岸諸国でも蜂起はあり、激しく弾圧されました。バーレーンはサウジアラビアから兵士1000人を借りて鎮圧した。シリアでは反体制派を支援しながら自国ではそれを許さない。そんな政権が本当に正当な国民の代表なのかと疑問を持ち始める。王政にとってたいへん危険です。シリア動乱が触媒となって湾岸地域の国民が奮起し、第2のアラブの春が起こりうる。

──日本の中東報道のあり方にも疑問がおありのようですね。

はい、とても疑問を持っています。イスラム国みたいなセンセーショナルな存在が現れると集中報道されるけれど、一段落すると再び何も報じられなくなる。中東の社会、文化、思想、人々の生活感を根底で理解した、継続的な報道には到底ならないのです。

丸腰の民衆が平和に行進してるところを政府軍が襲い市民が逃げ惑うという、一連の経過に見える映像が、実は継ぎはぎ編集されていたこともありました。なぜそういう図式に固定化するのか。非常に違和感を覚えます。それに国際報道の場合、よほどのことがないと訂正は出ませんし。私は変だと思ったら裏を取って確認できるけど、日本の読者・視聴者は誘導されるがままですよね。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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