原発優遇策をねだる、電力業界の本末転倒 「原発版FIT」など経産省も具体案を検討

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電力業界は再処理事業の費用として約11兆円と見積もっているが、それを賄うために電力会社が積み立てた金額は2013年度までで5兆円弱にすぎない。積立金は電気料金で回収しているものの、料金が全面自由化されれば、その積立金が大きな負担となる。そこで、原燃の民営は維持しながら、巨額の再処理費用については財政支援を求めようという狙いだ。

9月16日の原子力小委では、この問題について議論が行われた。山名元・京都大学原子炉実験所教授は「再処理事業はコスト意識の高い民営で行わせるべき」としつつ、「原子力バックエンド(再処理・地層処分)については、自由競争には馴染まないような特殊事業であり、国全体としての事業安定化の方策が必要」として、国の支援に前向きの考えを示した。

一方、NPO法人原子力資料情報室の伴英幸・共同代表は、「再処理継続のため、広く消費者に負担を強いる仕組みづくりが検討されているが、今、(再処理事業から)撤退して、使用済み燃料を長期貯蔵する方向に転換するほうが、はるかに経済合理性がある」として、支援策よりも撤退策の構築を求めた。日本原燃の組織形態や国の関与のあり方というより、再処理事業の存廃にかかわる対立点が際立っている。

根源的問題の明確化は先送り

原発のあり方については議論が先送りされたままだ(写真は大飯原発3、4号機)

再処理事業に限らず、原発に対する新たな支援策に唐突感を禁じ得ないのは、原発のあり方そのものという根元的問題の明確化が先送りされたままだからだ。

「原発依存度をできるだけ下げる」という自民党政権の方針は、2020~2030年代に原発ゼロを目指すということではないようだが、どの程度まで下げるのかはまったく示されていない。それなのに、原発支援策が議論されている。

「原発の運転コストは低廉」とエネルギー基本計画に書いたすぐ後に、原発の高コストを補う赤字穴埋め策を議論のたたき台に乗せる。そうした矛盾は、エネルギー政策への不信感を一段と高める。原発のコストやリスク、原発依存度に関する真正面からの議論が必要だ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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