豊岡市は「命への共感に満ちたまち」を目指す コウノトリのまちが地味に進めたこと(上)

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豊岡市の位置(ウィキペディアより)

坂之上:中貝さん、「いのちへの共感に満ちたまちづくり条例」という条例って、どんなものなのですか?

中貝:きっかけはDV(ドメスティックバイオレンス)に関する女性議員の質問と、一部の地域であった部落差別の歴史でした。

坂之上:具体的には?

中貝:僕は人権という言葉があまり好きじゃないんです。「人権というものは憲法が定めた権利で、人類普遍の権利で……」っていったところで、その時はわかったようにフンフン聞くかもしれないけれど、だからって、それはハートには響いてませんよね。

坂之上:難しい言葉はハートに響きにくいですよね。

中貝:僕の命はたった一つだから、僕にとってすごく大切なものです。だから、あなたの隣にいる他者の命だって、本人にとってすごく大切なんです。隣にある命に対して、なんていうか、尊敬の気持ちというか尊重の気持ちが、人々の心の底から出てきてほしいなと思いました。

人の命は統計上の「数字」じゃない

中貝:ちょうどこの条例を検討していた時に東日本大震災が起きました。あの時、たぶんみんな、命について思ったはずなんです。あの人が、お母さんが、子どもが死んでしまった。大勢の人が泣き叫んでいる。あの時ほど人の命に対して、日本中の人が思いを寄せたことは、近年なかったはずです。

人の命や死というのは、統計上の数字なんかじゃないんです。お一人お一人に名前があって、お一人お一人に人生があったわけです。

坂之上:ひとり、ひとり。

中貝:はい。その命への共感を、まちづくりの一番の基礎、このまちの哲学として、条例という形でまとめて、豊岡の土台に据えたいと思いました。命への共感に満ちたまちを作りたいと。

坂之上:市民の気持ちの土台として?

中貝:はい。でも、これすごく地味なんですよね。この条例でなにが変わるのかって言われたら、目に見えて違ってくるわけではない。

坂之上:でも、そういう気持ちの土台が、条例として町にあるのとないのとでは、たぶん何かが、大きく違うんじゃないかって、お話を聞いていて強く感じました。

(構成、撮影:石川香苗子)

※ 後編は10月13日(月)に掲載します。

坂之上 洋子 経営ストラテジスト

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さかのうえ ようこ / Yoko Sakanoue

経営ストラテジスト/作家。国際機関、官庁、大学、社会起業家/NGO/NPO/企業経営者等へ「どうすれば、社会に良いインパクトを与えることができるか」をキーワードに経営ブランディングの戦略構築を行う。Newsweekの世界が認めた日本女性100人の一人に選出。中国系アメリカ人で数学者の旦那と三ヶ国語を話す多国籍の娘と3人暮らし。現在、拠点は、東京、北京 、軽井沢。時々ニューヨーク。著書に『結婚のずっと前』『犬も歩けば英語にあたる

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