日本人と世界が知るべき経済学とモデルの限界 良い経済学者と悪い経済学者を見極める方法

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経済学と経済学者にできることはなんでしょうか?(写真:metamorworks/iStock)
NHK「欲望の資本主義」シリーズ(書籍では『欲望の資本主義』『欲望の資本主義2』など)にたびたび登場し、異色の経済学者として論陣を張る若き俊英、トーマス・セドラチェク。
20代でチェコ共和国大統領の経済アドバイザーを務め、欧州を驚愕させた異彩の第一作であり、15言語に翻訳され、日本でも話題となった『善と悪の経済学』から、その経済学観を抜粋・編集してお届けする。

ウィトゲンシュタインの名言

生きている世界では、科学は沈黙する。

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このことをみごとに言い表したのが、ウィトゲンシュタインの代表作『論理哲学論考』の有名な最後の文章だーー「語り得ないことについては、人は沈黙せねばならない」。

ウィトゲンシュタインは、モデルが持つ逆説的な無意味さに気づいていた。モデルはよじ上る足場としては有用だが、がらんどうだということである。現実世界の問題は、示すことはできても具体性を欠き、問いも答えも受け付けない。生きている現実の世界というものは、抽象的には捉えられないのだ。調整や省略なしで現実世界の複雑性を表せるモデルは、存在しない。

チェス盤には64のマス目がある。真四角で、白と黒が互い違いに規則正しく配置されている。盤上の駒の動きは、議論の余地のない明確な規則に支配されており、投了後にゲームの進行を逆向きに再現することさえ可能だ。

チェスを考案し、ルールをつくったのは人間である。チェス好きの友人は、チェス盤の横に飲み物を置き、そのテーブルを「65番目のマス」と呼ぶ。この65番目のマスは、実際にはチェス盤を除いた全世界だ。

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