がん患者の心の理解を妨げる「一方的な配慮」とは 日ごろからの気持ちを言い合えるよう心がけて

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裕子さんのように、相手の感情と向き合ったり、自分の気持ちを相手に伝えたりすることが苦手な人は、意外と多いのではないでしょうか。これを「回避型愛着スタイル」といい、主に両親との関係に端を発することがわかってきています。

一般的には、子どもが抱く悲しさや恐れ、怒りや喜びといった感情に、親がきちんと向き合って、良い意味で自分の感じていることを子どもに伝えられれば、子どもも自分の気持ちをきちんと伝えられるようになります。

ところが、「悲しくても泣くんじゃない」など、感情を表に出すことがよくないという雰囲気のなかで育った子どもは、感情と向き合うことが苦手になりがちです。

特に年配の世代は、気持ちを伝えることが苦手な人が思いのほか多いような気がします。一方で、最近は子育てスタイルが変化してきたのか、若い世代の人がきちんと自分の気持ちを伝え、相手の感情に向き合っている場面によく遭遇します。コミュニケーションが上手だなとつくづく感心します。

話を冒頭のご夫妻に戻しましょう。

「何もしてあげられない」に隠された本音

私は裕子さんに、「隆さんのことをとても大切に思っていて、力になろうと一生懸命頑張っておられることが伝わってきました。それで裕子さんご自身は、どのようなお気持ちなのですか?」と尋ねると、少し戸惑った表情を見せたあと、「夫のことをとても心配しています。でも、自分には何もしてあげられなくてもどかしい」と話されました。

そこで今度は隆さんに、「裕子さんは何もしてあげられないと思っていることについて、隆さんはどのように感じているのですか?」と尋ねると、「そんなことないさ。あなたがいろいろと心配してくれて、食べやすいご飯を作ってくれたり、病院に付き添ってくれたり、助かっていることばかりだよ。何しろ心強いよ」と話されました。

このとき裕子さんの目が真っ赤になり、涙があふれ出したのです。

おそらく裕子さんの心の奥には、夫に対する心配だけでなく、夫を失うことに対する強い恐れと悲しみがあるのではないか。そんなことを思い起こされました。

この面談で私は、「まだ慣れないかもしれないけれど、お互いの気持ちを知ることや、相手にどうしてほしいかをしっかり伝え、話し合うことは、2人の今後に役立つのではないでしょうか」と伝え、面談を終了しました。

回避型愛着スタイルの人は、気持ちを伝えても拒絶されるのではないかという恐れが目の前に立ちふさがるため、思いを口に出せないでいることが少なくありません。

ただ、それでは理解が深まりません。

できれば、お互いの気持ちに余裕がありそうなときにでも、「よかったら、最近どんなことを考えているのか教えて。あなたのことをもっと知りたい」などと、やんわり話しかけてみるといいのではないでしょうか。このような聞き方なら、相手も負担になりません。

何より、勇気を出して心を開いてみることが大切で、お互いをより理解するためには大切なことといえるでしょう。

清水 研 精神科医、医学博士

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しみず けん / Ken Shimizu

がん研有明病院腫瘍精神科部長、精神科医、医学博士

1971年生まれ。金沢大学卒業後、内科研修、一般精神科研修を経て、2003年より国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデント。以降一貫してがん医療に携わり、対話した患者・家族は4000人を超える。2020年より現職。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。著書に「もしも一年後、この世にいないとしたら(文響社)」、「がんで不安なあなたに読んでほしい(ビジネス社)」など。

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