日本では絶対に危険な「MMT」をやってはいけない MMTの「4つの誤り」と「3つの害悪」とは何か

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第2に、これは世界的な現象でもあるが、過熱した実体経済において生み出された利益や所得は、実物財に回らず、現代ではその多くが資産市場に投資される。だから、モノの値段は上がらず、株式や不動産だけが上がるのである。そして、物価で上がっているのは不動産、つまり家賃が最も大きなものの1つなのである。

第3に、モノの供給が世界中からなされるために、一国内の経済が過熱しても、その国の物価が上がるとは限らない、という普通のこともある。

これら3つの影響で、インフレ率は、現代においては、景気、需給ギャップの指標の役割を果たさなくなっているのである。

だから、金融緩和が過大になって資産市場がバブルになることが21世紀になって頻繁になっているのである。しかし、中央銀行は物価だけでなく資産市場にも目配りをしているから(少なくとも多少は)、MMT論者よりはましなのである。

経済や社会における、過大な財政支出の悪影響、コストはインフレだけではない。労働力や設備など経済資源の無駄遣い、民間経済と公共部門とのバランスの喪失、成長力の低下などがあることは前述したとおりだ。

MMTは資本市場の機能や国の長期成長力を破壊

これらは、経済における資本の配分、誰が資本をどの程度利用するのが経済にとって望ましいか、ということを行う資本市場の機能をMMTが破壊することによっておこる。価格メカニズムが資本市場において機能しなくなり、しかも、その代わりに配分を行う主体を考えないことにより、資本の利用の非効率性が計画経済よりもひどいものになってしまうのである。

そして、それは、現在において「誰に資本を配分するか」という問題を無視するだけではない。現在と未来において「どれだけ資本を使うか、資源を今投入するか、消費するか、それとも長期的な投資に回すか、さらには、すべての金融資本を今使い切るのではなく、将来に金融資本を実物資本に転換することのほうが効率的か、それをどのくらいのペースで、現在から10年後、20年後、100年後の未来に配分していくか」など、それらを一切考慮しないことにより、経済の長期成長力を徹底的に破壊する。

資本市場は、資本を今、誰に配分するかという問題と、どの時点に配分するか、という現在と将来の資源配分、資本配分という経済成長において、最も重要な機能を果たしているのである。

このようにMMTは、この2つの機能を無視して会計的な現在のバランスだけを強調することにより、市場、価格メカニズム、リスク配分、利子率という現在と未来との相対的な重要性、これらの要素をすべて無視しているのである。

これらの機能を果たすための媒介手段が貨幣、マネーである。MMTは、これらの機能を無視し、貨幣を、政府の手段、そして納税の手段とだけとらえ、経済、市場を無視しているのである。この結果、MMT理論を政策として実行すれば、経済は壊滅するのである。

理論的な4つの誤りのほうも、ここに明確になっただろう。したがって、これ以上、MMT理論を批判する必要はない。もうたくさんだ。

小幡 績 慶応義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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