日本では絶対に危険な「MMT」をやってはいけない MMTの「4つの誤り」と「3つの害悪」とは何か

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第1の害悪である「財政支出の中身の議論を行っていない」点に対しては、ワイズスペンディング(賢い支出)が必要であるという、単純だが重要な問題がまずある。

経済にとって必須であり、破滅しそうな社会を救うような財政出動は、もちろん行うべきである。しかし、失業率が歴史的に最低水準にあるような場合に、景気対策をするための財政出動はするべきでないことも明白である。

インフレ高進が起きなければMMTをやってもいいのか?

にもかかわらず、MMTでは、その議論には立ち入らずに「財政支出を拡大する余地がある」とだけ説く。前提として、財政支出が不足しているという認識があるのだろうが、そうであったとしても、役に立つ支出と無駄な支出と、害悪の支出とがある。その区別は財政支出という政策を議論する際には、何にもまして重要である。それを無視した政策提言は害である。

これに対してMMT論者は「細かい政策の是非については、個別に議論すればよい。われわれが言っているのは、マクロ政策として、財政支出の規模を増やすべきだと言っているのだ」と主張するだろう。そして、なぜ財政支出の規模を拡大するのが望ましいかと言えば、実際に困っている人々が社会にいる以上、その人たちを支援するための財政支出をするべきだ、ということを第1の理由として挙げる。

しかし、「すべての人を理想的な状態まで助けることができればそれは良いが、支出にも限度があり、コストとベネフィットの見合いで、妥当な水準があるはずだ。闇雲に支出を増やすのはおかしい」と普通の人々が言えば、彼らは「いや、財政支出は、インフレ率が高くなりすぎなければ、どんどん拡大していい」と主張し、「歯止めはインフレだ」という。あるいは「現在、インフレが起きていないことが財政支出が足りないことの何よりの証左である」と主張する。

この点が特に日本におけるMMT支持者にとって重要である。インフレが起きない日本なら、どこまで財政出動してもいいと彼らは主張する。こうなると「ワイズスペンディング(賢い支出)論が足りない」という素朴な問題でなくなり、日本経済を破壊する政策になってしまう。

なぜなら、インフレ率は財政支出の規模の妥当性の指標ではまったくないからである。インフレは金融緩和によってマネーがじゃぶじゃぶになれば起こるものでもなく、また、需要が過剰になれば必ず起こるものでもないのである。前者は、素朴な貨幣数量説が成立しないことを示しており、後者は、MMTがインフレ率だけを頼りに財政支出の規模を決めることが誤っていることを示している。

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