アートは人のどこから生まれてくるのか? そんな問いにヒントをくれる展覧会、「岡本太郎とアール・ブリュット─生の芸術の地平へ」が、10月5日まで川崎市岡本太郎美術館で開かれている。
「アール・ブリュット」とは、フランス語で「生(なま)の芸術」の意味。専門的な美術教育を受けていない作り手や、その表現を指す。中でも精神的、知的障害を持つ人、年をとってから素朴な絵をコツコツと描く人などの作品が注目されている。
岡本太郎が魅せられた、”人間の本質”
なぜ岡本太郎美術館でアール・ブリュット展が開かれるのだろうか。きっかけは、岡本太郎が書いた『アヴァンギャルド藝術』(美術出版社 1950年)という本だった。
「この本の中で太郎さんは、ピカソ、精神障害者の絵、子供の絵、アフリカの仮面や神像を、みんな同じ地平で紹介しています。半世紀以上も前に先駆的な考えを持っていたことに感動しました」
と、同館学芸員の仲野泰生さんは語る。人間の表現の本質は変わらないのではないか。仲野さんは、岡本太郎とアール・ブリュットの作品、子供の絵、アフリカの仮面を、実際に並べて見てみようと考えた。そして、アール・ブリュットにくわしいアーティストの中津川浩章さんの協力を得て、この展覧会が実現した。
会場に入ると、岡本太郎の『ノン』が迎えてくれる。ギザギザの歯をした愛らしい像だが、両手は何かを拒絶している。既成概念に「ノン」を突き付けている、という見方もある。
「1970年に大阪で開かれた日本万国博覧会のとき、太陽の塔の地下に、アフリカの仮面や各国の民族資料とともに『ノン』が展示されました。太郎さんは、自分の作品も表現においては変わらないよ、と言いたかったのではないでしょうか」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら