半導体不足で生まれる「圧倒的売り手市場」の実態 マイナーな半導体メーカーの立場も超有利に
マイクロチップ・テクノロジーは1989年以来、電子部品業界の目立たない片隅でマイクロコントローラー(マイコン)と呼ばれる半導体を生産し続けてきた。自動車や産業機器など、さまざまな製品を電子制御するチップだ。
ところが今、世界的な半導体不足により、同社の存在感が増している。マイクロチップの製品に対する需要は供給可能なレベルを5割以上も超過。アリゾナ州チャンドラーに本社を置く同社はこれまでに経験したことのない交渉力を手にし、今年からその力を行使し始めた。
変更NGの長期契約
マイクロチップは通常、納品から90日以内なら注文をキャンセルできるようにしているが、キャンセルおよびスケジュール変更不可の条件で12カ月間の発注契約を結んだ顧客に対する優先出荷を開始した。
このような長期契約が増えれば、半導体不足が解消したときに受注が蒸発するリスクが減るため、従業員の採用や高価な機器の導入に前向きになれる。発注解消の不安におびえることなく、増産を進められるようになるということだ。
「これで躊躇しなくてもよくなる」と社長兼CEOのガネッシュ・モーシーは語る。11月4日に発表した最新の四半期決算(7〜9月期)でマイクロチップの利益は前年同期の3倍に拡大。売上高は同26%増の16億5000万ドルを記録した。
マイクロチップの新たな契約形態は5000億ドルの市場規模を持つ半導体業界で進行する変化の一例に過ぎず、変化の多くは新型コロナ禍を発端とする半導体不足が終息してからも残るとみられる。