半導体不足で生まれる「圧倒的売り手市場」の実態 マイナーな半導体メーカーの立場も超有利に
今回の半導体不足によって世界は、半導体がいかに多くの製品の基盤となっているかを思い知らされた。半導体はさまざまな製品の頭脳であり、この微小な部品が不足するだけで、自動車からゲーム機、医療機器に至るまで、実に多くの製品の生産が窮地に陥った。
変化の中でもとくに目立つのが、「買い手市場」から「売り手市場」への長期的なシフトだ。工場を持つ半導体企業には、その傾向が顕著に現れている。追い風を最も鮮明に受けているのが、台湾積体電路製造(TSMC)のような巨大半導体メーカーだ。TSMCは、他社の半導体生産を受託するファウンドリーサービスを手がけている。
えり好みされる顧客企業
一般の知名度がそれほど高くない半導体企業も、半導体不足のおかげで取引先に対する交渉力が高まっている。マイクロチップ、NXPセミコンダクターズ、STマイクロエレクトロニクス、オン・セミコンダクター(オンセミ)、インフィニオンなど、多くの顧客向けにさまざまなチップを設計して販売している企業だ。製品の多くを古い自社工場で生産しているこれらの会社は今どんどんと、どの顧客にどれだけのチップを売るかを決められるようになってきている。
優先されるのは、長期固定の購入契約を結んだり、増産支援の投資をしたりしてくれるなど、顧客というよりパートナーに近い取引先だ。
こうした半導体メーカーの多くは、新たに得た有利な立場を控え目に行使していると話す。顧客が工場の操業停止を回避できるように努力し、価格を急激に上げるようなことはしていないという。顧客から金を巻き上げるような態度に出れば、相手の恨みを買い、半導体不足の終焉とともに取引を失う恐れがあるためだ。
それでも、業界の力関係が売り手優位になってきていることは疑いようがない。買い手が「今、優位に立てる要素はない」と、メモリー半導体を部品として大量に購入しているスマート・グローバル・ホールディングズのCEO、マーク・アダムズは語る。
概して成長の鈍い成熟した半導体業界にとっては、心理的に大きなインパクトをもたらす変化といえる。半導体メーカーの多くは長年、主に他社製品に置き換え可能な製品を売り続けてきた。自社生産で利益を確保するのは難しく、とりわけパソコンやスマートフォンなど半導体需要を大きく左右する製品の売れ行きが停滞すると、収益はさらに厳しくなった。
ところが、今では半導体なしには成り立たない製品が増加しており、急速に高まった需要が今後も長続きすると予感させる兆候が随所に見られる。アメリカ半導体工業会によると、半導体の7〜9月期総売上高は1448億ドルと、28%近い伸びとなった。